奄美大島で初めてカスミアジを釣った後、釣り中毒者の中森くんと合流して釣りに追い立てられる日々となり、この日は奄美5日目となりました。
この日は「ゆっくり寝て9時くらいから準備」という流れで合意していたのですが、早朝5時頃には当該発言主がベッドからモゾモゾと起き上がっている気配がします。
中森「トイレついでに漁港を見てきたらチヌがボコボコやっとるけん、釣りに行ってくる」と言い残して去っていきました。トイレのついでというのも嘘で、釣りがしたくて寝られなかったのかもしれません。
目次(スクロールします)
古仁屋の河口
この小さな河川の河口でチヌが小魚を追い回していたようです。その後6時半頃に戻ってきて
中森「釣れんかったわ。寝よう」
と言う私への連絡なのか独り言なのか判然としない言葉に「静かに寝させてくれ」という返事の代わりに黙って私は夢の中へ・・・のつもりでしたが、遠くの方から
「キター!!」
「これデカいぞ~。」
「シュイ~ン!!!!(ドラグ音)」
という音が聞こえてきます。寝ようとして寝られなかったのかそれとも寝るつもりがなかったのか、釣りに脳内を侵されている彼はYouTubeでGT(ロウニンアジ)の釣り動画を楽しんでおられるようです。
観るのは一向に構いませんが、イヤホンという品をご存じない?動画の中では釣り人がGTの必死のファイトに大興奮しています。
あまりの動画の盛り上がりぶりにこちらも吹き出してしまい、予定より早く宿を出ることに。しかし思った釣果が上がらなかったので早めに釣りを切り上げさせ、手安の弾薬庫跡を散策します。
陸軍の弾薬庫跡
ここは太平洋戦争の時に日本の陸軍が作った武器の貯蔵庫だそうです。敵に情報が流れるのを恐れて厳重に封鎖されていたようで、現地民も終戦後になって初めてこのような大規模な施設が作られていたことを知ったのだとか。

奄美は北海道と同様に古代や中世から日本の支配下にあったわけではなく、琉球や中国などとも深い交流があった中、17世紀に薩摩に支配されたことで「唐突に」日本グループに組み入れられたという歴史が有ります。そこから大正期まで薩摩藩に奴隷と呼ぶのも生易しいほどの泥水をすすらさせられた後遺症にもがいていた20世紀前半に
「貴方たちは日本人です」
とおだて上げられて(?)戦争に巻き込まれて行き、こんなに立派な火薬庫まで押し付けられていたのです。沖縄にも通じる複雑な歴史に想いを馳せながら弾薬庫を味わっていましたが
「思ったほどデカくもないな」
という、早く釣りをしたくて戦争遺構どころでは無い同行者の発言で目が覚めました。見えない時間の蓄積を想像することも重要ですが、貴重な釣り友達との関係も大事にしないといけないので、釣りに付き合うことにします。
手安港
漁港で釣りをしますが、全く魚の反応がありません。おそらく魚が居ないエリアなのだろうと念の為カメラを沈めると、クロハギやキタマクラ(フグ)など多くの魚が映り込んでいました。
これだけ魚が居て一匹も釣れないというのは信じられませんが、信じられないことが起きてこの日の釣りを終えました。
* * *
6日目もやはり早朝に起き出してマングローブをせめることになりました。
奄美大島ではマングローブの浅瀬に立ち込んで釣りが出来るようです。前回の奄美の汽水域で釣ったこの魚はマングローブジャックと呼ばれているそうで
40センチほどのサイズになると
「とんでもないファイトで楽しませてくれる」
のだとか。渓流用のライトタックルも用意していましたが大きなマングローブジャックにルアーを持っていかれたらと考えてPE1号、ナイロン16lbのタックルで挑みます。
役勝川マングローブ
マングローブジャックのことを気にしすぎてたせいで、マングローブに行けばすなわちマングローブジャックが私のルアーを口を開けて待機していると思ってしまいましたがそんなはずはありません。マングローブが広がる光景を楽しみつつ、豪雨に打たれながらヌメヌメした地面に足を取られながて参っていましたが
「魚おるぞ」
という一声で眠気が覚めました。どうやらチヌが餌を探してパトロールしているようです。同行者のポッパーに一度反応があったとのこと。
上から見下ろしていると確かにチヌが回遊しているのが見え、さらに小魚を追いかけている姿も見られました。
ポッパーやワームを投げ続けましたが魚に追わせることは出来ず、水中カメラでリュウキュウアユを撮影することもできませんでしたが、普段味わえない景色を楽しむことが出来ました。
雨で冷え切った体で車の暖房を入れると、たちまち車のガラスが曇り出しました。
私は車窓の曇りを取りたい時、なぜか窓を「冷やす」のだと勘違いしていたため車内はビチョビチョ極寒になって来たところ、慌てた中森教官に温風に切り替えられて罵声を浴びることに。
確か私も高校には通っていたはずなので、その時に化学の授業で教わった気がするのですが・・・。中森くんがネット検索してみると
「お前と同じバカな質問しとるやつがいるわ」
とのことで、ヤフー知恵袋に同志を見つけて嬉しくなりました。俺も君も、寒くて凍え死んでは無いんだもんな。そこそこ幸せにやってるもんな?
宿に戻るとさらに雨脚が強くなってきました。私は昼寝をし、その後寝疲れたら仕事をするフリをして時間を潰します。一方の同行者は熱心に英語の勉強をしています。大学までは同じ道を歩んでいた私と彼ですが、彼は大手企業勤務のエリートとして夏にはドイツに勤務しているそうです。一方の私は社会的地位のドン底よりさらに低く潜って魚を探しつつ、飽和蒸気圧と気温の関係の理解を謝って凍えて死んでいくのです。
ドイツでも元気でやっていて欲しいものですね。
その後、瀬戸内町の海岸を目指す途中、気になる看板が出ていました。
聞かれてもいないのに元気を主張するというのは、ただ事ではありません。「今日も元気です」では意地を張ろうとする気概も残っていないのでしょう。
大分の山奥で見たノボリはその気概が有りすぎて威圧感さえ漂います。
最後の宿での出会い
朝から何の釣果もなく、早くも夕方を迎えてしまいました。
一人で奄美大島で過ごした初日と2日目は、朝夕だけ釣りをして昼間は島を散策したり本を読んだりという時間の過ごし方をしていたところ、釣り怪獣と合流して以降、朝から晩まで釣りをしたあげくにほとんど釣れていない状態が続いています(釣れていないのは私だけですが)。
釣れないストレスを同行者の時間の使い方に求めるようになりつつある本日も残すところ夕マズメのみです。当初はポッパーで青物を!と話していた我々ですが、釣れない時間がその勇気を奪い去り、
「食材になるものさえ釣れれば・・・」
という、奄美大島のチャンスタイムとは思えない現実的な目標を設定するに至りました。2人並んでいそいそとワームを投げて最も確率が高そうなネバリを狙います。
しかしワームでの釣りは根掛かりとの戦いであり、神経をすり減らしながらワームも減らしていくことになるので技術が無い私はすぐに疲れてしまいます。
同行者は何やら背びれが長くて格好良い魚を釣り上げていました。

このように貧弱な岩場にもアジ系の魚は入ってるんですね。
「ワームは疲れる」という情けない理由と、たくさん買ってしまった小型のポッパーを使わないともったいない(?)という後ろ向きな背景でポッパーを投げてみると、魚が掛かりました。
ギンガメアジとナンヨウカイワリが釣れたポイントは有料記事に記載しています
生まれて初めてのギンガメアジは大きな魚では有りませんでしたが、よく引いてくれたのがとても嬉しく、叫びだしそうになります。
それでも同行者にバカにされないようにと冷静な風を装っていましたが、その後「あんときお前、手が震えとったぞ」と言われてしまい、40センチに満たない釣果で興奮して手と膝が震えてしまうピュアさに余計に恥じ入るのでした。
* * *
予想外の釣果を持ち帰って宿の共同キッチンで機嫌よく魚を調理していると、別の部屋に宿泊しているらしい一人の若い女性が覗き込んできて
女「あの、良かったら・・・。お二人も星を見ませんか・・・?」
と声をかけて来ました。
テキストだけで見ると随分楽しそうな状況ですが、前置きなしの星はいかがわしい以外の何者でも有りません。ヤバい女性特有の匂いを感じ取った私はちょうど料理中で忙しい雰囲気を出して中森くんに対応押し付けようとしますが、先程まで完全に食卓でくつろいでいた彼も突然「作業中」の看板を掲げて動こうとしません。
女「宿から1分ほど歩くと、星がキレイですよ」
やはり立ち上がろうとしない同行者との2秒ほどの睨み合いの後にお互いが無言で折れる形になり、不思議な3人で仲良く外を散歩することに。
奄美の星を見ながら話を伺ってみると、一流大学を卒業して官僚になったばかりというキラ星のごとき経歴を持ったエリート女性で、客観的に見れば怪しんでいた私の方がよほど怪しい並びです。
しかし魚のことしか頭に無い中森くんはキレイな星を見せたいという彼女の優しい心遣いを無視して
「漁港で見たらもっとキレイやったけどな・・・。」
などと、童貞の中学生のような意味がないどころか明確に有害な小言を浴びせています。
それでも彼女は持ち前のコミュニケーション能力で我々のくだらない話にニコニコと対応してくれたあげく、要点がボヤけた酔っ払いの話には
女「それってこういうことですよね。」
と官僚らしい鋭い目つきと卓越した分析力をもって一刀両断で整理してくれます。

我々の方は奄美の人気店「島とうふ屋」の豆腐、鶏肉のスパイス焼き、ギンガメアジのマース煮などの料理を持て余していましたが、彼女はその若い胃袋で気前よく吸い込んで行ってくれます。
彼女が食卓から退散した後で
中森「あの娘、タダでたらふく食えてラッキーよな」
私「はい。一人で部屋で過ごすより間違いなく楽しかったはずです」
などと勝手な事を言っています。しかし振り返ってみると、途中で奄美大島での釣りエピソードとなり、毎日の釣り場に選んでいた名も無い浜のことを「オレらが浜」近くの洞窟を「オレらがくぼ」と命名していたと話すと
女「オレらが浜・・・(笑)!日記に書きます!」
と言い残して共有スペースを去って行きました。
奄美では「俺等のトーク、ウケましたね・・・」などと呑気にしたり顔をしていましたが、人生初の奄美大島2日目を過ごした多感な20代女子の日記が「オレらが浜」なわけがありません。「口を開くと釣りとオレらが浜の話しかしないおっさん」と日記に刻んで頂ければ上出来です。
「実はオレらが浜でよく釣れる『ダツ』という細長い魚のことは、オレダツと呼んでいるんですよ」
という話を我慢出来たことだけが救いです。
* * *
最終日
家族へのお土産として「みき」を買って帰ります。
昨日若い女性に真っ白なみきを飲ませながらオレらが浜の話を浴びせかけたことは内緒です。

こちらは不評でした。
以上が2025年4月の釣り記録です。4月よりも秋の方が魚の活性は高いと聞いていましたが、確かに2年前の10月の方が根魚の反応は良かったように思います。
* * *
奄美大島で使ったタックル
ロッド シマノ ルアーマチック ソルト90MH
リール ダイワ 23レガリス LT4000-CXH
ライン PE2号
リーダーナイロン30lb
ルアー ポッパー デュエル 90F バブルジェット