格安航空が無かったのでJALの奄美大島行きの便を空港で待機していると、日本航空からアナウンスが入りました。要約すると
- クラスJの席に空きがある
- この席はシートが大きく座り心地も良い
- 料金はわずか2,200円である
- 購入すれば幸せが手に入る
とのことです。東京大阪間の新幹線のグリーンシートと普通席の差額が5,000円であることを考えるとリーズナブルかもしれません。普通席のままで席に座り込みます。

座席の後方は玉出のシュークリームのようにスカスカで、具を見つけることの方が困難な状態です。CAさんに聞いてみると座席も移り放題とのことで、ほぼ全ての具が3つの皿を独り占めして寝ることも可能な状態で座席のアップグレードを案内しておられたようです。
JALグループの企業理念には「公明正大で、大義名分のある高い目的を掲げ、これを全社員で共有」と書かれており、JALグループの崇高な精神を実地で学ぶことができました。まことに有難うございます。
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宇宿漁港
奄美大島に到着し、ひとまず漁港に向かいます。水面近くでプカプカ浮いている物体があるので観察していたところ、どうやら30センチを超える大きなハリセンボンのようです。温かいところでは珍しい魚では無いようですが、奄美大島に来た実感が湧きます。
今回の釣りでは青物を、出来れば前回の奄美で青い軌跡だけを残して消えてしまったカスミアジを釣ってみたいと意気込んでいますが、まずは小物でも良いので魚の感触を味わっておこうと思います。
小さいワームを投げてみると、早速無邪気に魚が追いかけてきてくれています。青い海、青い空の下で小さくても魚が反応してくれるというのは幸せな瞬間です。
しかしよく見てみると、魚がワームを恐れて逃亡しているようで、ワームが魚を真っ直ぐに追いかける形になっています。釣りは狩りとは異なり捕まえに行くものではなく、相手に追わせる必要があるのは恋愛と同じでしょう。私のワームは飼い主に似てやり方を間違っているようです。
その後ようやく一匹目の魚が釣れました。

もしかすると珍しい魚を釣ってしまったかもしれない・・・。と思いましたが、同じ魚が足元に無惨に捨てられているのを見てその商品価値を悟るに至りました。
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リーフエッジでカスミアジ狙い
今回カスミアジを狙うに当たって現地の詳しい方に話を聞いてみると、
「潮が下がっている時にリーフエッジ(サンゴの沖側)に立ってデカいトップを遠投してください」
と言われました。これなら難しいことが出来ない私にもカスミアジを釣れる可能性があるとのことです。
お言いつけを守ってポッパーを投げ始めると、開始30分くらいで大きな水しぶきが上がりました。ポッパーが口に入らなかったようですが、小魚では無い様子。カスミアジかな、まさか・・・。
釣り人のくせにルアーを投げ続けることが苦手な私ですが、魚の反応さえあれば頑張れるという単純な特技を持っています。自分の理論を信じて投げ続けているのではない点に恥ずかしさを感じつつポッパーを動かしていると、再度魚が飛び出しました。
「お前は腕が無いからタックル強くしとけ」というアドバイスに従って過剰に強いタックルになっており、安心して上げられてしまいました。
いつものタックルならもっと興奮できたであろうに、わざわざお金をかけて喜びを半減させた結果になってしまいました。
そして今回、カスミアジを何とか一匹釣るために8日も奄美大島に滞在するというのに、初日に釣ってしまってどうするのでしょうか。嬉しいような寂しいような気分です。
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前日念願のカスミアジを釣ってしまったことで空虚な二日目を迎えるかと思われましたが、恥ずかしいほどに満ちたやる気で気がつけば早朝から海岸に立っていました。
潮がしっかり引いていないので沖までリーフが広がっていますが、これくらいの浅瀬でもカスミアジなどの青物は入ってくるのでしょうか。
ポッパーを投げていると、ダツが水面を跳ねながらポッパーに飛びかかってきました。
結び方が悪かったのでしょうか・・・。
引いていく潮に合わせて前身しながらルアーを投げ続けていると、見覚えのあるポッパーが足元に落ちていました。
ラインは結び目ではなく、そこから20センチほどのところで切れていたようです。
この時点では「ダツに食われたのは幻で、根掛かりして妙なところで切れてしまったのだ」と思っていましたが、後々知人に聞くとダツの歯でラインが切れた後で岸に流れ着く形で根掛かりしていたのだろうとのことでした。
それにしても、干潮になって自分のルアーを拾えるというのはなんという幸福感でしょうか。
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3日目もバカの1つ覚えでリーフエッジでポッパーを投げ続けます。日中に太陽が出ると痛いほどの強さですが、奄美大島は日本でも屈指の日照時間の短さなので涼しい時間帯が多く、快適にルアーを投げ続けられます。
一昨日カスミアジが釣れた場所なので、ギンガメアジとかGTとか?も回遊してくる可能性があるということでしょう。
期待してポッパーを動かしていると、ゴミのような何かが掛かった感触がありました。
アオリイカは姿も動きも可愛すぎますし、同時に美味しそうです。
さらにカスミアジも釣れてきました。
カスミアジというのは、これくらいのペースで釣れてしまうものなのでしょうか?カスミアジが釣れて嬉しいというより、自分が釣ってしまうことでむしろカスミアジの価値を下げているようにも見えます。
その後、釣り仲間である中森くん(仮)と合流します。彼は研究職という仕事を釣りに存分に持ち込んでしまっているために魚の生態から道具まで細部に渡って仮説検証を突き詰めてしまうタイプで、釣りの間は脳の大半がお休みしている私とは釣果で雲泥の差を出してくるやっかいな同行者です。
ランチは脇田というお店で海鮮系の定食を頂きました。食いしん坊の中森くんがご飯大盛りを注文したのが羨ましくなり、ロクに食えないくせに私もつられて大盛りを注文します。コストパフォーマンスの高さに満足して店の外で中森くんの喫煙を待っていたところ、店員のおばあちゃんが慌てて外に出てきました。
店員「あぁ良かった。1人50円、ご飯大盛りの料金もらうの忘れてた。」
我々「あ、そうなんですね。」
店員「あぁ良かった。まだお帰りじゃなくて」
我々「・・・。」
店員「ほんとに良かった、まだいらっしゃって」
我々「・・・。」
気持ちはわかるけど「あぁ良かった」を言う相手は店員同士であって、我々に向かって何度も言わなくて良いのだぞ。
ポイントを移動しながら今夜宿泊する古仁屋に向かいます。当初は19時頃の到着予定でしたが「予定変更で15時に早く着きそう」とオーナーさんに伝えたところ、「私の代わりに15時過ぎにスタッフが伺います」と連絡がありました。
宿に到着してみると誰も居ないようで、どうやらスタッフさんより私が先に到着した様子です。車を近くに停めて車の色とナンバーをオーナーさんに連絡しておいたので、スタッフさんが到着したら私に連絡があるでしょう。
古仁屋の堤防
連絡を待ちながら散策していると、港で現地のおばあちゃんが綺麗なエラブチ(青ブダイ)を釣り上げていました。
レジャー目的ではなく、近所のスーパーに買い出しに行くような格好で釣りをしています。
連絡が無いので宿に行ってみると、女性が宿の前で優雅にお花に水をあげています。鼻歌まじりに水やりする余裕があるということはスタッフではないのかなと思いましたが、まさにその宿のスタッフのようです。
・・・。
オーナーさんよ、私のメッセージに気が付いてるならスタッフの方に転送して頂きたいですし、メッセージに気付ける状態で無いなら事前に俺の電話番号をスタッフの方に伝えておいてもらえないでしょうか・・・。私があの日あの時あの場所で彼女に出会わなければ僕らはいつまでも見知らぬ2人のままですよ?
隙が多い場末のスナックのママのような彼女は我々を待たせたという自覚も無く、ロボットのような表情で宿を案内してくれます。セルフチェックインが出来ないと聞いていたのでどんな特殊な案内があるのかなと思っていましたが、上手にテキストにすれば7行くらいで終わりそうな内容でした。
事前にオーナーからは「うちはセルフチェックイン出来るような宿ではありません」と役所のような堅牢さで断言されていましたが、鍵もあけっぱなしのこんな宿こそセルフチェックインに向いてるぞ。
恐らくオーナーさんは社会に出て夢破れて出た旅で奄美に来て、そこに居着いてかろうじて働き出したのだと推測しますが、あなたが自分探しの旅をしているときにはセルフチェックインは普及していなかったでしょうか、それとも自分を探すことに必死で見えていませんでしたか?
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夕方は前回の奄美大島で中森くんが美しいカスミアジを釣ったポイントでルアーを投げ続けますが、ミーバイ?が釣れただけでした。
すっかり暗くなったので帰ろうかと片付けをしていると、40~50センチほど魚(ギンガメアジ?)と思われる魚の群れがバホバホ言わせながら小魚を追い回しています。
つい1分前まで「今夜は何を食べようか」とおだやかな表情で話し合っていたおじさんたちは魚の反応を目にして活性が上がってしまい、目を尖らせて竿を振り回しています。しかしいつの間にか魚の反応もなくなり、暗さで片付けの難易度を上げてしまっただけでした。
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夜は奄美第二の都市である古仁屋の居酒屋「呑喰処 Soul food 三丁目」に入ります。
接客の若い男性の対応が良かったのでおすすめを聞いてみると、「釣りをしに来たならキンメダイを頼まないわけにはいかないでしょう!」と金目鯛を進めてきます。
ウェイターの仕事とは、お客さんの注文を厨房に伝えることではなく「お客さんを楽しませながらも自社の利益と廃棄コントロールに貢献すること」だと考えています。従って、彼が我々の状況を聞き、その上で高価で早く売り切ってしまいたい金目鯛を提案したのは素晴らしい仕事だと言えるでしょう。
しかしこちらは筋金入りのケチと来ているので提案それを華麗にスルーしてソデイカの刺し身、エラブチ(青ブダイ)の天ぷらなどを注文します。

あわせて黒糖焼酎に革命をもたらして今や一大ブランドになったという「里の曙」を注文したいと思いますが、黒と白の2種類の違いがわかりません。先ほど金目鯛を提案してきた丁寧な野生児に伺ってみると
「私には違いがわからないので、店長を呼んできます」
とのこと。彼のお店へのコミットメントを見ると最近入ったバイトという雰囲気では無いですが、より店長の方が詳しいのでしょう。奥の方から女性の店長がうやうやしく登場してくれました。
店長「さとあけの白と黒の違いなのですが・・・」
我々「さとあけ?」
店長「すみません、里の曙ですね。違いは、私にもわかりません」
我々「え・・・あ、そうなんですね。」
我々本土の人間からすると、店長として召喚されて「わかりません」は恥ずかしく、ネットに書いてあるような情報(白はさっぱり飲みやすく黒はコクが・・・)をさも自分が感じたように言ってしまいそうなところ「全く違いがわからない」と丁寧な口調で白状してくれる古仁屋の店主の態度になぜか感心してしまいました。
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昨日は古仁屋の居酒屋で食事をしたので、今日は釣った魚を調理しようと、魚を持ち帰るための保冷バッグやキッチンペーパーなど万全に整えました。大きめのアラと、出来れば青物とイカも釣りたい・・・。しかし食欲をむき出しにして釣れた獲物で7センチ以上のサイズの記憶がありません。
私「こんな準備しても、釣れないですけどね」
私「念の為、念の為ですね」
などと神様にでも聞かれているかのように丁寧に言い訳をしながら準備を整えます。海の雰囲気は十分なのですが小さなネバリ(カンモンハタ)しか釣れず、しかし雰囲気に引っ張られてムキになってワームで深場を攻めた結果、いくつもジグヘッドを失ってしまい、どうやら私の本音が神様にバレてしまっていたらしく、何の釣果も得られませんでした。
釣り場でクヨクヨしていると散歩中のおばあちゃんに声かけられました。
婆「何が釣れる?」
私「ネバリくらいしか・・・」
婆「すごいね。頭が美味しいから、頭捨てるなよ!」
私「はい・・・。」
婆「だめだぞ!捨てたら!!」
初対面の人から笑顔で命令口調を浴びるなど久々の経験で、椎葉で知人の男性が小学生女児を気軽に恫喝(?)していた様子を思い出します。
それでも最後まで諦めずに竿を振り続けている中森くんを横目に暇つぶしに貝殻を拾っていると
中「お前、それ家族へのお土産やろ」
と指摘されました。
まさに図星です。奄美の美しい貝殻に穴を空けてアクセサリーにしようと演説をぶてば、家族から無料で許してもらえると考えていました。でも今だけはそれをバレずにやり過ごしたかった・・・。
諦めて帰ろうかと考えていると、中森くんの竿が大きく曲がっています。現場では何かわかりませんでしたが、40センチほどのテンジクアジだそうです。
先程まで独り言を言いながら貝殻を漁っていた私も突然やる気になり、エギでアオリイカを釣りました。
イカを釣り慣れておらず、スミをかけられて不機嫌になっている勝手なニートです。さらに中森くんが大きめのネバリを釣り、十分な食材を得たところで納竿としました。
結局私は小さなイカしか釣ていませんが・・・。
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主な食材を中森くんが釣ってくれたので料理担当は私が・・・と言いたいところですが、釣りも下手なら料理も下手。
「レシピを見れば料理も出来ます」と言っておきながら、いざビールを一口流し込むと無気力になるという持ち前の腐敗誠心を隠せず、私は見守り担当に。
見事にネバリの煮付け、テンジクアジの刺し身、イカの刺し身と湯引きを作ってくれました。
甘めの刺身醤油と甘みのる黒糖焼酎の「まんこい」がよく合うような気がします。
翌日からはマングローブフィッシングや岩場でのギンガメアジに挑戦しました。
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奄美大島で使ったタックル
ロッド シマノ ルアーマチック ソルト90MH
リール ダイワ 23レガリス LT4000-CXH
ライン PE2号
リーダーナイロン30lb
ルアー ポッパー デュエル 90F バブルジェット