「南の島でルアーを投げて五目釣りすれば、魚種も豊富で大きい魚も釣れてきっと楽しいはず」という釣り友達の言葉に乗せられて奄美大島に向かいました。
その後訪れる厳しい現実も知らず・・・。
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奄美大島には成田と関空からピーチが飛んでいるので、タイミングが良ければリーズナブルに渡ることができます。
奄美空港に到着して地域最安の奄美レンタカーに向かっているとき、手元にスーツケースが無いことに気付きます。空港の預け荷物受けとりレーンで、釣り竿だけを受け取り、スーツケースを忘れて出てきてしまったことに気付きます。空港出口で「手荷物レーンには戻れません」という注意書きが書かれているのを見るたびに
「逆走するやつなんか居るかよ」
と思っていましたが、まさに自分がその主人公になってしまいました。
警備員に逆走を怒られながらも無事に荷物を取り返し、空港近くの漁港に向かいます。
笠利漁港
この漁港がリーフ(岩礁)と防波堤が近接する優良ポイントであることも、流れ込み近くに40センチほどの大きな青い魚(ナポレオンフィッシュのような)が居たのも、その時は
「奄美では普通のこと」
と思ってやり過ごしてしまい、ここがとても良い漁港であることには気づかなかった結果、小さな魚を一匹釣り上げただけで終了しました。
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その後、今回の同行者である中森くんと合流します。彼は研究者として働く理系脳で、釣りにまつわるすべてのことをロジックで固めつつ、その理屈を上回る釣果を引きずり出して隣にいる私の釣り意欲を見事に削いでいく疎ましき者です。
しかしこれまでの苦行はすべて渓流での出来事でした。今回はいつもとフィールドが違うので、私に運が回ってくるかもしれません。
用安のリーフ
平日なのでこんな場所で誰にも会わないと思っていましたが、あらぬところに軽自動車が隠れるように止まっていました。
「きっと車内でSEXしてますね」
とつぶやくと、
「や、やってないやろ!!」
と叫びながらおつゆを口からこぼしてしまう、40手前のおじさんが中森くんです。想像力がピュア過ぎます。
中森くんがルアーを投げると、ほぼ一投目で魚を釣っていました。
あまり興味が無かったのか、ピントがボケています。
一方の私はルアーを二つ無くして意識朦朧になり、すでに多少釣りが嫌いになってしまいました。リーフの尖り方がひどく、歩きにくくてならなかったので、近くの手広海岸に移動します。
手広海岸
ルアーに二度ほど魚が掛かりましたが、どちらもバラして初日の釣りを終了しました。海岸沿いにあるコテージでは男女が楽しげにシャンパンをぶつけあいながら、岩ばかり釣っている私を見下ろしています。
釣りを終えて駐車場で黄昏れていると、現地の方に声をかけられました。
この近くのエリアにUターンで戻ってきた彼に言わせると、地元出身者と移住者では「明確に地位が違う」ようで、手広海岸にある無料の駐車場の中でも使い勝手が良い位置に移住者が駐車していると
「そこ、地元の人間の場所なんで」と車を移動させられている現場を見たことがあるとのこと。また、サーフィンの波待ちをする位置についても明確に地元優位ヒエラルキーが利いており、良い場所で待機出来るのは地元の人に限られるのだとか。
では外国人が来た場合にはヒエラルキーの最下位かと言うとそうではなく、相手が著名なサーファーだったりする場合には地元ヒエラルキーは見事に瓦解して地元出身で威張っているおじさんは露骨に外国人におもねるのだそうで、この国のギブミーチョコレートの根深さと田舎の人間の卑屈な精神を実感することができました。
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夜は奄美の中心地である名瀬の街に繰り出します。
どことなく、というか、露骨と言えるほどの昭和感が匂い立っています。まるで20年前にタイムスリップしたような空間と黒糖焼酎に浸りながら初日を終えました。
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2日目は、日の出前に起きて名瀬の漁港に向かいます。
大熊漁港
しかし早起きした甲斐無く、私も同行者もなんの反応も得られませんでした。
またしてもこのエリアの釣りに詳しいと言う男性が声をかけてくれたので話を聞いてみると、「日中の漁港は厳しいけれど、夜釣りでポッパーを投げれば絶対に釣れる」とのことなので、今日は夜釣りをすることに決まりました。アベレージで50センチくらいの体高があるアジ(ロウニンアジだったか、カスミアジだったか)が釣れるそうです。
いろんな島に仕事で行っているという彼は、熱を帯びながら徳之島の人々の恐ろしさについて語りだしました。
闘牛で有名な徳之島の人々は子供の頃から普通に博打をしたり、違反で検挙された警察官の車に嫌がらせでハブを投げ込んでおいたり(ドアをどうやって開けたのか)、奄美や与論島の人々とは全く違う気性の荒さを持っているので「彼らに接するときには常に低姿勢で居る」と言っていました。
なるほど奄美は穏やかな人が多いのだなと安心した私は、後日痛い目を見るのでした。
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その後、徳之島トークをしてくれた方に教わった宇検に移動しましたがダツしか釣れず、またしても現地の釣りおじさんと歓談することになりました。宇検の近くに住むその釣り人は、淡々とこの地域の釣りについて話をしてくれましたが、突然「見てやってください」と言いながら、どっしりしたスジアラの写真を見せてくれました。
彼はよほど嬉しかったのか、そのスジアラを自宅のキッチンに置いたり自分で持ったり、様々な角度から写真を撮っていましたが、写真をめくっていると、10歳くらいの娘さんに魚を持たせた写真が出てきました。
娘さんは親父が釣ってきたデカい魚を喜ぶ風もなく、ただデカいヘチマを持たせられているかのように面倒くさそうな表情でスジアラを抱えており、その表情の貧しさに思わずすべての父親が抱える孤独を感じ取ってしまいました。
部連の漁港
2つの堤防の左側からルアーを沖に投げ続けていると、右の堤防にいた同行者がバタバタと慌てています。彼がこれまで大きなニジマスやコイを釣り上げる瞬間を何度も見せられてきましたが、これほどまでに竿が曲がっているのを見るのは初めてです。
根掛かりで騒いでいると思いたいところですが、どうも私の希望通りには行かなそうです。
ダッシュで彼に近づいてみると、格闘していた相手が打ち上がっていました。相当の大物かと思いましたが、大したサイズではありませんでした。
その正体は具だくさんのオムレツのように丸々としたカツオでした。水族館以外で生きているカツオを見たのは初めてですが、形と言い色と言い、まさに理想的です。彼らは泳ぎ続けないと呼吸が出来ないことからすぐにリリースしていましたが、私ならリリースするのが惜しくて、抱き殺していたでしょう。
青い弾丸のパワーは海釣り経験が豊富な彼の想像をも絶していたようで、リールに収まっていた200メートルほどのラインはほとんど出尽くしそうになったとのことでした。
勇気を得た私はその後も沖に向かって一生懸命ルアーを投げ続けましたが、何一つ釣れることはありませんでした。
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その夜は現地の方に教わった「絶対釣れるポイント」で「絶対釣れる釣り方」をしましたが、ただ暴風と雨にやられてずぶ濡れのアンパンパンのように弱っただけでした。
宿泊先がキッチン付きの宿だったため、この日は街には繰り出さず、スーパーで買い込んだ食材を煮るなり焼くなりして頂きながら、実体験に乏しい冴えない下ネタを交わしながら惰性の夜を過ごしました。
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地元の釣り人のお話では、釣りをするためにわざわざ車で30分移動する奄美の人は稀で、彼らは身近な範囲で釣りを楽しむ傾向があるのだそうです。
つまり、名瀬から離れれば離れるほど魚は多いと言うアドバイスに従って、3日目は瀬戸内町の海に向かいました。
河川が流れ込むこのポイントには生命感が溢れており、ルアーを投げるとどんどん魚が食いついてきます。
河川で五目釣りを楽しんだ様子を以下の動画にまとめています。
大好きな渓流釣りの感じを思い出してしまったのか、明らかに大物が存在しえない川の方に向かった私とは対象的に、同行者は40センチほどのチヌをトップウォーターで釣り上げていました。
未だ大物を釣る気配の無い私に配慮し、彼はその釣り方を一投だけで切り上げて私にポイントを譲り、大きなチヌをトップで釣る方法をレクチャーしてくれます。
河口部の波が当たっているところにポッパーを投げて連続で動かせばすぐに大きなチヌが掛かるという魔法を教わったのですが、私には使いこなせなかったようで、ただ口を空けたポッパーが私のところに戻ってくるだけでした。
昼からは東京大学医科学研究所という怪しい施設の近くで釣りをします。この研究所は120年前に南国の風土病を研究するために出来た施設のようですが、その外観はあまりに異様で「ここで生物兵器の開発をしていた」と言われれば納得してしまうほどの妖気を漂わせていました。
手安のリーフ
同行者が砂浜に向かって適当にルアーを投げると、すぐに大きな魚を引きずり出しました。
チャーミングなヒゲを使って、砂浜から餌を探し出すのだそうです。
同行者がルアーやその動かし方をチョイスするとき、僕はほとんど適当にやっているのだなと思っていましたが、釣りを一緒にやりだして5年ほどが経過したこの瞬間にようやく、彼がほぼすべての行動をロジカルに導き出して、その結果として魚を釣れてきているのだとわかってきました。
リーフ(岩礁帯)に移動してルアーを投げてみると、確かに岩礁まわりにルアーを通すと魚の反応がありますが、欲張って少し沈めると、直ちに根がかりします。
同行者はルアーが岩に当たったと見ればすぐにラインを緩めて少し送り出すように竿を振って回避していきますが、私はルアーになにか触れば全て魚だと思ってフッキングしてしまうので、投げるたびにルアーボックスが軽くなって行きます。
ラインを結び直していると、関節視野で竿が大きく曲がっている様子が見受けられます。
できるだけ見ないように背を向けていましたが、やはり魚の姿は見たいので近寄ってみると、見事なカスミアジが引き上げられていました。
なにゆえそう簡単に釣られてしまうのだとカスミアジに説教をしてみても、私の釣果がなんとかなるわけではありません。
その後私も適当な魚を釣り上げることが出来ました。
しかし、これらの釣果をあの青く輝くカスミアジと比べると悲劇的にかすむため、同行者には隠れてこっそり撮影して、そそくさとリリースしておきました。
4日目は、windyというアプリで風向きを見た結果、南風が強かったようなので、それを避けて北側の海岸に向かいます。
どこに入ろうかと車を走らせていると、助手席から
「車停めて!!デカい魚が居る!!」
と言う叫び声が聞こえてきました。急いで駐車スペースを探し出して入ったポイントが
こちらです。
そこからはまるで人影を見た小魚が踊り狂うかのように大慌てで道具を準備し、転げ落ちるように大きなアジが居たポイントへと降り立ちますが、現場に立ってみると、何も居ません。
・・・。
カスミアジやロウニンアジのような魚は回遊性が高いでしょうし、それらの魚が移動するのはしごく当たり前に思えますが、我々が竿を出すまでは雪解けを待つ木の芽のように、じっとそこに居続けてくれるのだと勘違いし、
「リーフが多いので、掛けたら大変ですね」
などと、無邪気にランディングする方法まで相談しちゃっていたのでした。
多少の魚を釣り、その3倍くらいのルアーやワームを失ったところで、同行者が奄美を離れる時間が近づいてきたので、奄美空港まで見送ります。
私は3日後に帰りの飛行機でピーチを利用する予定ですが、そこで最大の障壁になるのが手荷物重量が7キロまでという厳しい制限です。
私の手荷物は7キロを越える予定ですが、釣り竿で預け荷物枠を一つ購入しているので、2つ目の枠を購入すれば、私の航空券より荷物枠の方が高いような微妙な事態になりかねません。
居合わせたピーチのスタッフを捕まえて、7キロ制限をかいくぐる方法をしつこく訪ねます。最初は
「制限オーバーする場合は、もう一つ枠を購入して頂く必要が」
「別途郵送されるお客様もおられます」
などと言っていましたが、あまりに私がしつこく聞き続けるのが面倒になったのか
「荷物の重量は、奄美空港ではお客様ご自身に計測して頂くため、係員がチェックすることは通常御座いません」
「あまりに大きなお荷物を持って保安検査で並ばれている場合、お声掛けさせて頂く場合もございます」
とのことで、3辺のサイズにさえ気をつければ、重量に関してはノーチェックで通過出来る可能性が高いことがわかり、意気揚々と釣場へと向かいます。
後半では漁師さんにキレられたり女性にフラれたりと悲劇は続きます。奄美大島での釣り記事後半はこちらです。