釣れない男の接待釣り2日目は、梶原川のキャッチアンドリリース区間周辺でたくさん釣って頂くことに成功しました。3日目も同行者殿の
「もちろん、4時半集合でお願いしますよ」
という強気の一言に何も返せず、遅刻されることがわかっていて4時半きっちりに集合場所で待機します。同行者殿はやはり遅刻しますが、この日は4時40分に来られました。
遅い・・・。
10分の遅刻くらい良いじゃないか、器が小さすぎるぞと言われそうですが、実際そうなのです。私、釣りに関しては極めていい加減ですが、時間に関しては厳密なようです。さらに早起きが嫌いなため早朝の遅刻というのは断じて許容しがたく、私にとっての早朝4時30分とは4時30分のことで、決して4時40分ではありません。
私「じ、時間通りですね!行きましょう!」
彼「行きましょう。」
最初から4時40分集合と言ってくれれば10分長く、美しいヤマメを釣る夢を見ていられたのに。そんな言葉を飲み込んで、川に入ります。
目次(スクロールします)
五木川と梶原川の合流点から
大きな流れがぶつかるポイント
ここには、川に入る箇所が二箇所あります。
①川の合流点より上、歩ける範囲は10メートルほど
②川の合流点より下、歩ける範囲は100メートルほど
朝一で誰も釣り人が居ない状態でわざわざ①に入る奇怪な釣り人はいません。先に釣りの用意を済ませた私が②に向かおうとすると、釣りの準備が終わらない同行者殿から声をかけられます。
彼「釣れない男さん、餌釣りなら①のポイントが良さそうですよ」
私「そう、ですかね・・・。②の方が良さそうな気がしますが」
彼「私はルアーですが、餌釣りであれば、絶対そうですよ。是非、①に入ってくださいよ!」
私「あ、ありがとうございます・・・。」
彼の欺瞞にまんまと乗っかる形で良いポイントを明け渡し、ブツブツと文句を言いながら気が乗らない釣り場①へ向かいます。
限られた足場から竿を出すしか無いようなポイントだったので、とりあえず竿を伸ばすとヤマメが釣れました。
カギを紛失する同行者殿
多少心に濁りを抱えつつも楽しく釣りが出来た我々は、宿泊先の山小屋さんでの美味しい朝食を終えて再度川に出かけます。すると同行者殿が今度は
彼「あれ、どこへ行ったかな・・・。車のカギが無いな。」
と言い出しました。
私「そうですか、どこですかね」
車から降りて半径10メートルの範囲しか動いていないので、すぐに見つかるだろうと気にせず探すフリだけしてみましたが、しかし、5分経っても10分経ってもカギは現れません。店員さんも出動して探してもらう展開になり、その後ようやくカギが出てきた模様。
彼「カギ、ありましたよ」
私「そうですか、どこにありましたか?」
彼「帽子と頭の間に挟まっていました。」
私「は?」
彼「帽子の中にカギを入れたまま、被っていたみたいです。ハハハ」
私「ワハハ・・・。そんなこともありますよね!」
そんなことがあってたまるかという言葉をなんとか飲み込み、川へと向かいます。
梶原川キャッチアンドリリース区間上流
少し足を痛めていた私を気遣って、同行者殿が運転してくれました。優しいところもあるんですね。
運転すること10分、釣り場に車を止めようとした際に「ガリガリ」と車が嫌な音を立てました。
私はもう、何が起きても驚きません。
彼「車の下を擦ってしまったみたいです」
私「あら、やっちゃいましたか」
彼「石が隠れていたみたいです」
私「おやおや、隠れていましたか。」
助手席の私からは落ち葉に囲まれた大きな石があることははっきりと見えていましたが、これ以上何を言っても成果はあがりません。
二人で川に降りて釣りスタートです。同行者殿はルアー、私は餌釣りと毛鉤なので当然釣行のスピードが合わず、10分ほどではぐれることに。一度はぐれても、釣りをはじめたら2時間ほどで合流というパターンを昨日から繰り返していたので、きっと大丈夫だろうと時間を決めずに解散してしまいました。
小さなヤマメが釣れました
戻らない同行者殿
14時頃から釣りを開始したため、2時間後には自然と集合となるでしょう。
16時頃から車で同行者殿の戻りを待つも、30分経っても、1時間経っても戻ってきません。今回、意思疎通が全く出来ていない私と同行者殿ですが、さすがに私がこの時間まで同じところで釣りをしているとは思わないでしょう。それに、同行者殿の携帯の電波はこの周辺では全く入っていないということを彼も私も知っていますし、この状況で私が全く心配していないと彼が考えて釣りを続けていると思うのは無理があります。
おかしい・・・。彼はおかしなところが多分にあることが今回の旅で証明されていますが、少なくとも普段は弁護士の先生として最低限の情報処理能力を持ち、仕事仲間や依頼者さんとコミュニケーションを取りながら仕事をしているはずで、何も気にせず楽しく釣りをしているとは考えにくいでしょう。何かあったのだろうか・・・。
膝を痛めている私が川まで降りて彼を探すことは出来ません。明るいうちに警察に助けを求めるべきか。その前に、彼とよく釣りに行くという共通の知人に電話をして彼が釣りを続けているという可能性は考えられるか尋ねようか。この地形で暗闇での捜索は困難だろうから、夜までに出てこなければ家族にも連絡しなければいけない・・・。
ついに3時間が経過し、4時間が経過しました。釣りをしているのであれば出てきてくれるだろうと、川沿いの道路をクラクションを鳴らしながら車で何度も往復します。しかし、一向に人が出てくる気配はありません。
待っていてもソワソワするだけなので、暗くなるまで釣りをすることに。
下梶原川との合流点から梶原川へ
釣りするのかよ!と言われそうですが、このあたりは釣り人の不思議な性ということでご勘弁ください。入渓しやすいところを選んで川に入ります。
合わせた瞬間に吹っ飛んできました
暗くなってきたので
「同行者殿が、無事に川に戻ってきていますように・・・。」
と祈るように車に戻ってみると、同行者殿が、何食わぬ顔で立っていらっしゃいました。
良かった・・・。
1年分の「良かった」を出し切ったように安心しました。話を聞いてみるとなんのトラブルもなく、ただ
「釣れているから5時間かけて釣りを続けていた」
だけだったようでした。私に心配されているのはわかっていたが、「下流に進むうちに携帯の電波が入るんじゃないか」
と、まことに根拠に薄い希望だけを抱いて行軍を進めていたとか。
集合時間を明確に決めていなかった自分にも当然落ち度があると反省いたしましたが、さて、時間を決めておいたとしても同行者殿が時間通りに戻ってくる可能性は0であったことは間違いないと思われました。
最終日に追加での悲劇が
彼「朝6時に集合で」
と告げられたものの、当然のように朝6時のロビーには私ひとり。どうやらココが我慢の限界、こうなったら同行者殿は放置して一人で釣りに行こう!と意を決して気合を入れて外に出てみると、なんと予定外の大雨です。
最後の小さな反抗のチャンスまで天に奪われた私は、彼を駅まで送る時間までふて寝を決め込みました。
ようやく旅も終わり、のはずが
トラブル続きでもはや私から普通の笑顔を奪った旅でしたが、ようやく幕引きが近づいて来ました。
同行者殿の飛行機の時間に間に合うよう、彼を朝9時に人吉の駅までお送りしなければいけません。わざわざ遠くから熊本まで来ていただいているのだ、最後くらいは笑顔で送り出したい。私の中のわずかに残った仏の部分をむき出しにしてエンジンをかけると、同行殿が頭を抱えています。
彼「最悪なことに気付きました」
4度の遅刻、忘れ物、紛失、車を削ったあげくにプチ遭難。ほぅ、ついにご自分に嫌気がさされたか・・・。さすがにそれも仕方あるまいと納得しかけましたが、そうではないようです。
彼「昨日の釣り場に忘れ物をしました」
私「へぇ。」
と一言で片付けてしまえばよかったものの、今日の私は小さな仏。
私「何を・・・お忘れなんですか?」
ルアーケース、ベスト、ネット、ライン、ラインカッt・・・このあたりから私の意識は朦朧としはじめます。ここから往復で2時間。私も予定があるから取りには行けないと言うか、正直にレンタカーの返却時間も私の予定も余裕があることを伝えるか。
私「私は時間なら急いでいませんよ。た、ただ・・・。い、行きたくないです!」
この旅の最後の最後で、ようやく本音を言えました。しかし同行者殿は私の優柔不断を鋭く見抜き
彼「2万円支払うと言ったら、どうですか?」
なんと現金を持ち出してこられました。
(帰りたい。家で寝たい。2万円、今は欲しくない・・・。)という声が喉元まで出かけるも、そこまでして取り戻したいという同行者殿の執念に押される形で、お面のような笑顔で彼を駅まで送り、私は一人で雨の道を五木までドライブすることに。
不幸は続くよどこまでも
急いでるときほど事故には注意しなければなりません。雨も降って視界も悪いのでいつも以上に安全に運転していると、タイヤに違和感が。
まさか、と思いながらタイヤを確認すると、ぺしゃんこにパンクしています。ここは熊本のはじっこ、人吉のさらに山の方です。確認してみると、ロードサービスが到着するのは90分後とのこと。
90分も車の中で待っていても仕方ないと思い、はじめてのタイヤ交換に挑戦です。雨に打たれながら、youtubeを参考に30分ほどでタイヤ交換を完了しました。
「タイヤの交換台は1万円かかります」
全額同行者殿に請求するので問題ございません。何なら50万円くらい請求して頂ければよろしいのでは!
そして同行者殿が「荷物を置いていった」という場所までたどり着きましたが、そこには何もありませんでした。無いなら無いで、結構。とりあえず指定された場所に来て、一通り探したという事実が大事なのです。
五木川と梶原川の合流点から
普通の精神状態ではない私は、気がつくと川に立っていました。雨に打たれながら、無心にルアーを投げる、投げる!普段より3割増しで遠くまでルアーが飛んでいくようです。
そして怒りの小刻みシェイクが効いているのか、ルアーにヤマメが食ってきます!しかし、落ち着きの無さがそうさせるのか、そもそもそんなもんなのかはわかりませんが、全て途中で川へとお帰りになり、一匹も釣り上げることはままなりませんでした。
今回、これほどまでに不運が一気に押し寄せたのは、私がこれまで神をバカにしてきたせいでしょう。神社の賽銭箱で1円を処理したり、地蔵にラリアットを食らわせたりするのはこれきりにしたいと思います。