「広島風お好み焼きが大好き」だとこれまで誰にも言い出せず虚しい想いを抱えて生きてきましたが、偶然にも同じかそれ以上の熱量を持った今田くん(仮)に出会い、広島で渓流釣りと併せてお好み焼き屋行脚をして参りました。
今田くんは友人女性の夫で、かつてご自宅に呼ばれた時にドヤ顔で持ち込んだワインが彼の常飲していたものと同じだったという失態を犯してしまいましたが、なんだかんだ一緒に釣り旅をすることになりました。
広島市内の激安宿である花門ホテル瀬戸から繁華街に歩く途中、太田川を覗き込むとチヌ(クロダイ)が悠然と泳いでいました。
お好み焼き屋に到着するまでに4匹ほどのチヌを発見し、どれも人から狙われたことが無いのか、警戒する素振りも無く池を泳ぐ鯉のようです。魚観察好きのおじさん2人で存分に川を覗き込んだ後、お好み焼き屋に向かいます。
甘いソースの香り、パリっと焼けた麺、謎の広島名物・・・。違いなどわかりませんが何軒かお好み焼き屋をハシゴした後は記憶もなく、気がつくと宿で朝を迎えていました。
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太田川での朝
昨夜のチヌの鯉化現象は夢だったのでしょうか?
釣り竿を片手に宿を飛び出し、真面目に通勤なさっている神々から白い目で見られながらも橋からルアーを落とします。
チヌは明らかに浅いところを動き回っているので、餌を探しているのでしょう。そんな状態のチヌを誰も釣ろうとしないのは、どういう理由でしょうか。広島の人たちにとってチヌは神聖で釣ると祟られると考えているのかもしれません。
結局ルアーには見向きもされませんでした。
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広島市近くの山でヤマメ探し
広島のブログ読者さんから教えて頂いたポイントに向かいます。中国地方では瀬戸内海側にはアマゴが生息しているはずのところ、瀬戸内側の河川の源流域でなぜかヤマメが生息しているのだとか。

その方の仮説では地形が変わって流れ出す河川が変わる「河川争奪」が起きたのでは無いかとのことでした。元々日本海側に流れ出していた河川が地殻変動で流れ出す先をなくして瀬戸内海側に流れ出すようになり、その後も元の河川のヤマメが残っているとすれば、大変なロマンです。
この河川争奪の歴史を私が紐解いていきましょうか?と事前に研究者に確認したところ
「アマゴ河川で源流域だけ朱点が無かったり、ヤマメ河川で源流域だけ朱点があることはよくあることです」
とのこと。
・・・。俺のロマンチックな気分をわずか4分で葬ってくれました。
「でも一応調べることも出来るから、サンプル採ってきてね」
とのことで、釣れたら魚のアブラビレのごく一部をもらってくることにします。
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地殻変動とそれに翻弄されつつ強く生き残る渓流魚・・・。
地球の深呼吸のような大きなスケール感に包まれて川にたどり着くと、今回のテーマと似つかわしく無い施設が川沿いに立っています。
懐かしい風情のあるラブホテルは今も営業されているようです。改めてこのホテルのページを見てみると、露天風呂なども備えているようです。
立派な中年にしてわざわざ赤線を引くのは気が引けますが「スケベイス」という言葉をテキストとして初めて拝見しました。
ラブホというと窓が無い刑務所のような建物の印象ですが、ここは各部屋に大きな窓が有り渓流ビューになっています。
ということは、我々からするとラブホの室内ビューになってしまっているということです。誰かの視線を感じてホテルの方を見ると、誰かの素足が見えて、スッと消えました。
賢者モードの人間がタバコでも吸いながらこちらの様子を伺っていたのでしょうか。
喜怒哀楽のどの箱に入れて良いのかわからない気持ちを抱えたまま圧倒的に建物の方に気を取られて川に向き合いますが、背後の蠢きが気になって釣りに集中できなかったのか5センチほどのカワムツしか釣れませんでした。
当然ヤマメのサンプルもへったくれも無く、川を後にします。
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夜は昨日に続いて市内でお好み焼き屋行脚です。まずは宿の近くにあった「カープ」というお店に入ります。1976年に広島カープが優勝した年に開業したようで、店内は昭和を描いた朝ドラのお店の色をしており、カウンターの席はインドの炎天下を思わせるほどの熱風が浴びせかけられます。
2人の店員さんはTVに釘付けになりながらも器用な手つきでお好み焼きを整形していきます。
この日は広島のプロサッカーチームの試合がこの近くで開催されるため、ここでお好み焼きをテイクアウトしてスタジアムに向かう人達が目立ちます。そんな中、6時15分受取予定で予約していたらしいサッカーユニフォームを着た女性が予約の45分前に到着し
客「まだ早いので、店内で待ってて良いですか?」
とおじいちゃんに聴きました。当然、
爺「いいよ、今から焼くからちょっと待ってて」
と返答するかと思いきや
爺「6時15分って聞いとったんじゃけど・・・」
とつっけんどんに言い返しています。物腰の柔らかいその女性は急かす意図も無さそうで「はい、6時15分までここで待っていても・・・」と繰り返しますが、それでも
爺「6時15分って・・・6時15分って聞いとったんじゃけど・・・」
と一歩の妥協もせず、さらにはガラガラの店内で待機することすら許さず、なぜか一度店から外に追い出していました。50年の間来る日も来る日も鉄板の前で焼かれ続けた爺さんに焦げ付いた頑固は伊達ではありません。爺さん・・・店内で待つことくらい許してやってくれ・・・。
その後も数件のお店を堪能した後宿に帰ろうとすると、急な雨が降ってきたのでタクシーに乗り込みます。
目的地の住所を口頭で伝えましたが運転手が聴き間違えたらしく、宿とは違うところに向かっていることが途中でわかりました。
同乗する今田くんは老舗企業を経営するまともな経営者ゆえ
「野蛮な言動はしたくない」
と普段から言っている紳士です。彼には私も紳士であると思っておいて欲しいと考えていましたが、タクシーの運転手がヘラヘラ笑いながら行き先を変更したことで当初の方針をすっかり忘れ
ニート「運転手さん。メーターは、とめた方が良いんじゃないですか?」
と、先程までの明るい口調はどこへやら、両目ガン開きの低い声でメーターを止めさせてしまいました。その後は雨で叩かれる窓ガラスと広島の街を堪能していましたが、運転手は
(この客、メーターを止めた時の1,230円で請求したら、殴ってくるんじゃないだろうか・・・。それとも会社に連絡するとかクチコミ書くぞとか、妙なことを言ってくるのか・・・。)
関西弁外国人顔の突然のだんまりは相当怖かったようで、到着すると止まっているメーターの料金よりさらに値引く形で
「せ、せ、1,000円で良いですよ!」
と上ずった声で料金を請求してきましたが、その声は
「命だけは・・・!」
のトーンでした。別にそこまで値引きさせるつもりはなかったのですが・・・こんな顔と関西訛で申し訳ない・・・。でもお言葉に甘えて1,000円だけお支払いし、宿へと逃亡しました。