谷底での孤独な体調不良から無駄に生還してしまった私は翌日、またも宿で同席した名人からそそのかされて、不土野川へやってきました。(前日についての記録はこちら)
名人「釣れないけど、大きなヤマメがいっぱいいるよ」
私「釣れないんですか?」
名人「難しいよ。まぁ釣れない男さんじゃ、釣れないんじゃないかな」
初対面の人にいきなりあんたじゃ釣れないでしょう、と言われても納得してしまう釣れない男なのでありました。
不土野川
名人いわく、梅雨を過ぎるとダムから大型のヤマメが遡上してくるものの、釣り人が多くてかなりヤマメはスレているのだとか。
釣れてくるヤマメはキレイです。
傷跡があるヤマメ
名人「淵には、大ヤマメが回遊してるのが見えますよ。きっと、釣れませんけど」
確かに底の方を見ていると、30センチを越えるような大きなヤマメらしき魚が数匹、パトロールしているのが見えます。おそらくこちらの姿は見えているはずなので、彼ら大物には期待せずに餌を水面から入れた瞬間に
「ゴボッ!」
と大きな音を立てて魚が食いつきました。
「や、やまめ!」
パーマークが見えたのでダムから遡上してきたものではないでしょう。体高のある大きなヤマメが餌に食いつき、びっくりして「わぁっ」となった勢いでフッキングが完了していました。
「あっはっは」
文字通り、私は川沿いでぐわっはっはと笑い声を発しておりました。
名人、オヌシは知らぬかもしれぬが、案外、こんな形でも釣れるのだよ。
文字通り彼にギャフンと言わせられる。良い気分ではないか!
と、彼の顔が思い浮かんだ瞬間に、魚の感触がなくなりました。半口空けて顔で竿の先端を見てみると、ラインがぷっつりと切られていました。
結んだ時点では0.8号だったはずのラインは、消耗し尽くして0.1号の強さも無くなっていたようでした。
「・・・。」
大物にラインを切られた私はここであっさり諦められるわけもなく、執拗に粘っていると、今度は底のほうで大きな魚が掛かりました。新しくなったラインで慎重にやりとりしているので、切られることもバレることもありません。
うおぉぉ~!!
ウグイ・・・。
まさにウグイに始まり、ウグイに終わった椎葉遠征となり、まさに私の程度の低い人生を反映したかのような釣りでした。
* * *
このあたりが「駄賃付街道」と呼ばれていたことを偲ぶ石標が残っています。
生活に不安がある私は駄賃付街道の「賃」という文字を見て、現実に引き戻される。家賃を払わないと・・・。
駄賃付とは行商のことで、戦後までは馬にお茶や椎茸を乗せ、山超えて商いに行く人が多く通ったこの場所を「駄賃付街道」と呼んでいたのだとか。
思わず生活改善センターに足を運びそうになります。
現実から逃げたい皆様、ぜひ椎葉はいかがでしょうか。