兵庫県の北部を流れる円山川を目指して、加古川から車で北上します。
朝来市という兵庫県を南北に分けるとちょうど真ん中くらいにあるあたりを目指してマップを見ると、不思議なことに気が付きます。それは、兵庫の南の都市である姫路から北の温泉地である城崎までほぼまっすぐに南北の道が伸びているということです。
地域の人なら誰でも知っていることなのでしょうが、朝来から南は定規で引かれたアフリカの地図のように直線的です。また、「酷道」と呼ばれる道のほぼ全てが海岸線ではなく山越えルートであることからも分かるように、海岸から山手へと伸びる道路は海岸線のそれと比較すると「獣道」と呼んで差し支えないような道ばかりというのが一般的です。
しかしこの兵庫の南北を貫く播但道は道路が整備されているだけでなく、周辺はどこも生活の痕跡がしっかり刻まれた街が形成されており、山の民の卑屈さを全く感じさせない雰囲気が出ています。
そんなことはともかく、ヤマメです。道路は真っ直ぐでも私の人生に影響を与えませんが、ヤマメが釣れるかどうかは私のクオリティ・オブ・ライフに大きな影響を与えます。
川に向かってまっしぐらのつもりが、巨大な遺構が目に飛び込んできました。
素晴らしい・・・。
これは神子畑選鉱場というかつて鉱物を選別していた設備の一部です。
どうやらこの周辺は生野銀山を始め産出量が多い鉱山が多かったようで、神子畑については西暦800年ころから鉱物が掘り出されていたそうです。そしてそれらの鉱物や、鉱夫とその家族のための物資を運ぶ道路として日本で最初の本格的な産業道路として兵庫県を南北に貫く「銀の馬車道」が日本で最初の舗装道路として整備され、現在の播但道へと続いているということなのです。
要するに、姫路から真っ直ぐ北に向かって開けた道路が伸びている原因はこの鉱山にあったということなのです。廃墟に気を取られているうちに兵庫の南北に綺麗に道路が整備されているのかというヒントを得ることができました。
改めて神子畑選鉱場を見てみると、朽ちていくコンクリートの素晴らしさを感じさせてくてます。
一方的に朽ちていくコンクリートの塊を見ていると、ただ骨になる日に向かって邁進しているだけの私の人生を思わせます。
しかしこのコンクリートは一時的に多くの人の生活に関わり、富をもたらしました。一方、こちらはどうでしょうか?誰からもその存在を顧みられることなく、そして影響力あるポジションを奪いにいく気力すら失くして東京から脱落してしまいました。
そんな私は先日、久々に周囲から注目を浴びる小さな事件を起こしました。私のPCがコンピュータウイルスに感染したのです。このウイルス「エモテット」に感染すると、感染者は過去にメールでやりとりをした全員に対してスパムメールを撒き散らすことになるため、私は知り合い全員に
「私の名前で迷惑メールが届くかもしれませんが、添付ファイルは開かないでください」
という連絡をする必要が出ました。私のPCがウイルス感染した原因もやはり、同様に知り合いの名前で到着したメールの添付を開いてしまったことが原因です。しかし私から注意喚起のメールを受け取った人たちは感染の原因について
「パソコンでギリシャ哲学について深めるうちにウイルスに罹ったのかな」
などと思うことはなく、およそ全員が
「エロサイトを見ていて感染したのだろう」
「5年ぶりに連絡が来たと思ったらそんなことか。あいつらしいな。」
と思ったことでしょう。こんなことでしか周囲から思い出してももらえない私はコンクリート色の顔をしたまま川へと向かいました。
円山川支流神子畑川から
アクセス | 姫路市、加古川市、豊岡市、福知山市、丹波市から1時間 養父市、朝来市から30~40分 |
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対象魚 | ヤマメ |
遊漁券 | 年券:12,000円 日釣券:3,000円 |
管轄漁協 | 円山川漁協 |
入渓のしやすさ | ★★★☆☆ |
歩きやすさ | ★★★★☆ |
魚の量 | ★★☆☆☆ |
魚のサイズ | 最大25センチほどのヤマメも居ました |
川へ降りるといきなり大きな淵が連続しており、そこにミノーを投げると小さなヤマメが釣れました。
どれだけ本命と思われるポイントでヤマメを釣り上げても、決して皆様を嫉妬させるようなサイズを釣り上げることがありません。この安心感だけを武器に、6年も渓流釣りブログを続けられており、ひとえに皆様のおかげではなく私のおかげです。
上流へと移動すると、小さな流れ込みを見つけました。
先程の大淵と比べれば水たまりのようなものですが、もしかすると大きな魚がいるかもしれません。
特に理由はありませんがスプーンをゆっくりゆっくり引くと、大きな魚が掛かりました。私が「大きな魚だ」と思うとだいたい木の枝やビニール袋ですが、今回は本当に魚です。しかもクルクル回っているのでヤマメのようです。
足元まで引いて来ようと思いましたが、私とヤマメの間に障害物がありスムーズに寄せられません。強引に大きなヤマメを寄せてくるか私から歩み寄るか迷い、強引に魚を寄せてくることを決断します。
するとヤマメが空中にプラーンとぶらさがる形になり、金魚すくいの紙がやぶけて金魚が水中に落ちていくように、ヤマメは針から外れて川へと戻って行きました。
・・・。
バラしたことは非常に残念ですが、この川に大きなヤマメが居ることがわかったことは収穫です。
今度こそはバラすまいと入念にドラグをチェックしてルアーを投げると、魚が掛かりました。
先程調整したドラグも良い仕事をしたと褒めて遣わして良いでしょう。
アブラハヤです。
渓流の女王ヤマメに対して、かつて私はカワムツを「渓流の腐れ縁」と名づけましたが、アブラハヤは渓流の疫病神と呼びます。
投げたルアーが小さくてアブラハヤにも食べやすかったのかもしれません。ルアーをもう少し大きくしたところ、別の魚が掛かりました。
許せぬ。
しかしこのサイズのルアーにアタックしてくるアブラハヤは見事だとも言えます。
* * *
とぼとぼと上流へと移動していると、大きな音を立てながら何かが頭に向かって飛んできました。アブでしょうか、その羽音に驚いて勢いよく首をすくめたところ、肩の筋肉を痛めてしまいました。
いてて・・・。
ヤマメは釣れないのに肩の筋肉は攣ってしまう、臆病ものの私です。私の先祖がジャングルを生き抜いてきたということが信じられません。
そして釣りの方も、それから釣れども釣れどもアブラハヤばかりで、もはやアブラハヤを釣りに兵庫県の北部までわざわざ来てしまったと言えるほどになりました。
* * *
この日はホテルエリアワン和田山という宿に宿泊します。
宿泊クーポンを使って最もオトクな選択肢を吟味したところ、夕食付きプランになりました。
夕食はホテルで食べるものと思っていましたが、フロントで知らされたところでは近くの飲食店で食べるコースになっているとのことで、既に食事内容も決まっているとのことです。食堂か何かだと思って指定されたお店に行くと、なんと大きな箱の焼肉屋さんで駐車場には車がズラリと並んでいます。
地方のロードサイドの焼肉屋なのでカウンター席などは無く、グループで賑わう土曜日に私は1人で6人席を占領することになってしまい、その姿はまるでクラスのはみ出しものです。
1人でソワソワしながら誰からも連絡が来ないスマホを見るでも無く見ていると、料理が届けられました。
肉片が紛れ込んだボンカレーでも食べさせられるのかと思っていましたが、これまで見たことが無いほど豪華な焼肉定食が届けられました。
無心で肉を口に放り込んで行きますが、元々脂に対する耐性が低い私の胃はこれらをほとんど受け付けてくれず、悲しいことに肉の半分ほどを残して席を立つことになってしまいました。
1人で焼肉屋の6人席に座るほどの肉好きなのに、肉を半分も残していった私を周囲の楽しそうな家族連れやカップルはどう見ていたのでしょうか。