9月30日で全国のほとんどの渓流が禁漁になる中、他府県の空気を読まずに10月14日まで渓流釣りを許してくれている神奈川県に来ました。
その神奈川県内で漁協が無い(遊漁料が無料)のに、ヤマメが生息していそうな河川を発見しましたので、その川をレンタカーで目指します。
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通常、河川に沿って林道が整備されていることが多いため、市街地から林道をつたって標高の高いところを目指すことが多いです。
しかし下流側は道が整備されていなかったので、上流側から大胆にアプローチを試みます。無料アプリの「YAMAP」とGoogleマップを見ると、山道を通って行けばなんとか上流側から徒歩で水が流れる源流域に出られそうな感じです。
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駐車スペースから山に入ると、お年寄りでも歩きやすいくらいの安全な遊歩道が整備されていました。
しかしこのあと、上の景色からは想像もつかないような地獄へと突き進んでいきます。
最初は開けていて安全な道でしたが、10分も歩かないうちに道が閉ざされていました。
道を間違えたのかとYAMAPを見てみますが、この方向で間違い無いようです。元々は開けていた道を倒木が覆い、それで人や動物が歩かなくなったことに乗じて続いて笹が覆い尽くして行ったのでしょう。
私は登山用などではなく、水辺で歩きやすいフェルト底のウェーディングシューズを履いているので、木の上に乗り上げた時に氷上のペンギンのようにツルツルと滑ってしまいます。
転がるように道を進んでいると、腕に鋭い痛みが走りました。
渓流で何度と無く我々の行く手を阻んで来たトゲトゲ草(名称不明)です。
この草は、開けていて動物や人が歩こうとする通路を狙って繁殖するようで、曲がり角を曲がる度に現れる歌舞伎町のキャッチのように、開けていて歩きやすそうなところには必ずトゲトゲが待ち構えています。
枝をペンチで切ってはぶん投げ、切ってはぶん投げ、痛みに耐えながら少しずつ進みますが、1メートル進むのに1分ずつ掛かっている状態です。
この時点で引き返そうかと思いましたが、すでに1時間ほど進んできてしまったので、ここで諦めるわけには行きません。
何度もトゲトゲ草に腕をつかまれましたが、このエリアを過ぎると天国かと見紛うような開けた歩道が出てきました。このまま河川まで出られればと思いましたがそうは行かず、今度は急斜面を降りながらトゲトゲ草に攻撃されるエリアに突入しました。
私の体の前面が全てトゲトゲ草にからまり、親子が感動の再会を果たして抱き合うようにトゲトゲ草とひしと抱き合っているかのような状態になりますが、もちろんトゲトゲ草と抱き合ってもなんの感動もぬくもりも無く、ただ痛覚が刺激されるだけです。
一つずつトゲトゲ草を切って行こうかと思いましたがキリが無く、距離で見れば駐車場から川までを100とすると残り10の地点で、ついに引き返すことを決意します。
まだまだ時間はあったのでゆっくり進めば川まで出られたかもしれませんが、炎天下で体力を奪われていること、電波が無くなって久しいこと、一人での行動だったのでこれ以上の無理は禁物と判断しました。
「トゲトゲ草を切ってきたのだから、帰り道は行きよりは楽だろう」と思い混んでいましたが、急な上り勾配と昼間の暑さで体力をどんどん削られた上に、方向音痴で道を何度も間違えたことも重なり、車に到着したときには靴も脱がずにシートにへたりこんでしまいました。
身につけていたラッシュガードはまだ新品同然だったのにトゲトゲで信じられないほどの穴だらけです。
ハーフパンツもダメージ加工をした昔の若者ファッションのようになっています。
これまで15年近く渓流釣りをしており、釣れずに帰ることは何度でもありましたが、川に近づくことも出来ずに釣りを終えたのは始めてです。
やや大げさに言えば次に挑む誰かが川まで到達してくれることを祈って、別のポイントに向かいます。
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神奈川県の渓流
こちらも先程の河川と同様、漁協が管轄しておらずヤマメが生息するのか不明な河川です。
河川に到着した頃には先程の密林航路ですでにクタクタで、私が狙うヤマメやイワナが居るのかどうかを確認しないと釣りをするモチベーションが保てません。
駐車スペースの近くを流れる河川に降りてカメラで覗き込むと、最初のポイントでヤマメが見つかりました。
インターネットで調べた範囲ではヤマメが居るという情報はありませんでしたが、目の前には間違い無く、ヤマメが泳いでいます。
試しに毛針を流すと食いつきましたが、残念ながらバレてしまいました。
しかし!
そのヤマメが毛針に食いついてバレるまでの一連の流れを私は抜け目なく撮影していました。動画を確認すると・・・ヤマメが身を躍らせて毛針を食う瞬間から、驚いて体を暴れさせ、針を外して大急ぎで下流に逃げていく瞬間まで、見事に動画に収まっています。
フフフ・・・。
これまでの人生で自分自身に何の才能も見いだせませんでしたが、ついに釣り映像屋としての才能を発掘してしまったようです。
そしてまさに今、パソコンを目の前にしてこの動画をブログに掲載しようとしたところ・・・誤って動画を削除してしまいました。
あぁ、あんなに素晴らしい映像だったのに!伝説の動画屋になり、映画監督になってレッドカーペットで立ちションする機会を、ギリギリのところでつかみそこねてしまいました。
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その後ポイントを変えて毛針を浮かべると、ヤマメが釣れました。
このエリアはヤマメとアマゴの混在するエリアだと聞いていたのですが、釣れたのはヤマメでした。
魚影は濃いようで、河原を歩きながら淵を見ていると、大きな魚がターンするのが見えました。
毛針で水面を流したりジャンプさせたり、しつこくアピールしていると、おそらく先程私が姿を見た大きな魚が食ってきました。水面に出た魚体を見るに、太ったヤマメのようです。
私はその魚が掛かった瞬間に誰かへの自慢欲が湧いてしまい、直接の釣り友達からSNSでしか知らない人まで、色んな人の顔とアカウント写真が浮かんできます。これで奴らにギャフンと言わせられるぞ。
魚が掛かっている間、私はまるで遊郭の女性のように、落ち着いて、ゆったりと、まるでヤマメを焦らすかのように、岸の方にヤマメを移動させます。
しかしヤマメが着物の帯回し(あ~れ」→良いではないか良いではないか、のやつ)のように身をローリングさせ始めたその時、竿から重さが抜けてしまいました。どうやらバレてしまったようです。
私は「あ~れ~」と、帯を解かれた遊女のように声を出す余裕も無く、呆然と立ち尽くしてしまいました。糸を確認すると、毛針の結び目から切れてしまったようです。
動画で撮影していればなにかのネタにもなったものを、ここぞというところで撮影もしておらず、ただ手の感触だけが虚しく残りました。
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この日は釣りを終えた後で知人と合流する予定になっており、釣りを17時には終える予定でした。しかし移動で焦って事故などは避けたいので、余裕を持って16時くらいには釣りを終えることになるでしょう。
私は元来、トラウトを1匹釣り上げればそれで満足するタイプなのですが、今回は大きなヤマメをバラしてしまったのがどうにも悔しく、その後の友人との予定に後ろ髪を引かれつつも釣りを続けてしまいます。
そのおかげで、お腹が大きなヤマメを釣ることが出来ました。
※この河川は漁協が管轄していないポイントなので、釣り場は有料記事のみでご紹介します。
釣りをやめようとすると釣りのゴールデンタイムが来るのが世の常でしょうか、この日も「もう止めよう」と思って毛針を流すと食ってくる、「これで最後だ」と思えばやはり食ってくるという状態で、気がつくと最終リミットである予定の17時を少し回って、あたりは暗くなっていました。
その後、私は大急ぎで友人との約束の場所まで向かいますが、友人は私が遅れたことを「さも当然」という顔をして迎えてくれました。
その後夜遅くまで飲み続け、翌日は別の神奈川県内の漁協が無い河川でイワナとヤマメを狙いました。