雨竜川と朱鞠内湖でイトウを釣り損なった私は、名寄の北の河川でニジマスを狙います。
ペンケニウプ川
大きな河川ではありませんがほどよく深さが有り、大物が居そうな予感がします。
ルアーを投げ続けると、昨日と同じような引き方をする魚がかかりました。前半の猛ダッシュ、後半の潔いほどの諦念、これぞウグイの引き方です。この頃には掛かった瞬間にはウグイ判定が出来るほどに昨日からウグイを釣り続けてしまっています。
その後も変わらずウグイを釣り続けていると、なにやら美しい魚が釣れました。
サクラマスです。
実際には北海道の夏場の河川はサクラマスが大量に入り込んでくるので、避けて釣りをするなど不可能だと誰もが知っており、実際にはトラウト釣りをする人の中では食べたことがあるという釣り人の方が多いでしょう(とブログに書いていたら北海道警察から削除の要請がありましたが丁重に無視)。
「サクラマスを釣りあげたら6ヶ月以下の懲役刑だぞ!」という脅しも頂いておりますが、衣食住が提供されるなんて夢のようです。
* * *
現場にはわずかに先に別の釣り人が車でポイントに到着していたようです。
先に到着されていた50代くらいの男性に上流下流どちらに行かれますかと質問すると、
「お任せしますよ」
と返答されます。いえ、先に到着されているので選んでくださいと言っても
「いえ、私はよくわからないので好きに選んでいいですよ」
と返ってきます。皆様は御存知の通り、釣り場での釣り人はリングに上ったボクサーのように殺気立っており、先行している釣り人を無断で追い越す人が居る一方で、先行者でありながら釣り場を譲ってくれる人が居るなどとは考えたこともありませんでした。
私も先行車を追い越すことは無いものの、もし他の釣り人と同時に到着したとすれば車から転げ落ちてでも「先に到着した」という立場を確保しにかかるでしょう。彼のようになるにはどうすれば良いのでしょうか。
結局双方が譲り続けたままで並んでフィールドに出ると、彼は澄み切った目で
「景色が素晴らしいですね。釣れなくてもほんとに、いいですよね」
とおっしゃるので、私もその豊かな表情に釣られたように同意しました。
しかし!彼は週末を利用して旭川から釣りに来たようですが、片道8時間かけてたどり着き、その後5日も不毛をかこっている私は「フィールドに来ただけで最高!」という達観モードにはなれません。余裕の違いは人格ではなく投資した時間と金額の違いから来ると結論付けます。
なんとなく私が上流側に入ることになり、どちらかと言えば私のほうが有利なポジションを確保することになってしまいましたが、キレイなヤマメが釣れた以外には大した釣果を得ることは無く、ランチタイムになりました。
* * *
スーパーでお弁当を購入して温めようとレジの女性に声を掛けると、「電子レンジは置いていないんです」と氷のように冷たい返答が返ってきました。日本で最も「温め」が必要になる場所だと思いますが、お客様方は問題無いのでしょうか。
しかし、バックヤードにも電子レンジが無いなどということは無いでしょう。店内を観察して愛想の良い店員さんを探してみたところ、仏様のように笑顔をふりまいている年配の女性店員さんを発見しました。
先ほどより涙目で声を掛けてみたところ、「ごめんなさいね、電子レンジ置いてないんです・・・。」と一度は断られたものの、その場でお弁当を抱えてうなだれてみたところ、そんなおじさんを不憫に思ったようで「ちょっと貸して」とお弁当を奪い、スタッフルームまで行って温めてくれました。
温かくて美味しいお弁当を車内で食べていると、駐車場では同じようにお弁当を食べているドライバーさんがたくさんおられます。この状態なら店内でお弁当の容器くらい捨てさせてもらえるのではと、先程のぶっきらぼうのレジ打ちに聞いてみたところ「ゴミ箱は設置していません」と、やはり冷たい対応が帰ってきました。あなたこそ最も温めが必要かもしれませんね。このおばちゃんよりはガストの配膳ロボットの方が心が通いそうです。
しかしその後、先程の成功パターンを踏襲して仏様のほうに声を掛けると、予想通りに廃棄してくれました。
なんて素敵な店員さんでしょうか。その表情からは客に対する配慮だけでなく仕事に対するプライドや喜びが溢れ出ています。車に戻ってありあわせのお菓子を握りしめて再度彼女に渡してみたところ、先ほどと同じようにニコニコ笑顔で喜んでくれるかと思いきや、ちょっと困ったような顔で押し返してこられました。
しかし何度か往復するうちに受け取って頂き、私もお腹いっぱいで夕方の釣りに向かうことになりました。そして夕方も大した釣果には出会えず、ついに最終日になりました。今回も結局大きなニジマスを釣ること無く終わってしまうのでしょうか。
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名寄川
早起きをして名寄川の河口部に降り立ちました。
ゆったりと流れる大きな川にほどよく深みがあるので大物が潜んでいそうな雰囲気ですが、私はこういう大場所が苦手です。それでも5日も釣りを続けていると少しキャストが上手くなったのか、対岸の狙った位置の近くにルアーが入るようになってきました。
「ゴン」
という強めのアタリを手に感じた瞬間、うなだれます。この度で人間より多く顔を見ているウグイです。ウグイの引きを何度か味わった後で別のポイントに移動し、ようやくウグイでは無い大物が掛かることになります。
ペンケニウプ川
大きなニジマスが釣れそうな予感と、結局自分には釣れないのでは無いかという不安の0:10でルアーを投げてみますが、やはりウグイと小さなニジマスしか釣れません。
やはり私の予知能力の高さを自ら証明してしまうのか・・・と考えていると、違和感に自分の鼓動が早くなるのに気が付きました。鯉ではないかと思うほどの大きなニジマスがルアーを少し追いかけてきましたが、私の姿が目に入ったのかすぐに深場に去っていきました。
・・・。60センチくらいはあったでしょうか、何を食ってあれだけ太くなれるのでしょう。
今回の北海道の釣り旅ではルアーを追いかけてくる大きなニジマス姿を見かけることがありませんでしたが、ついに目にしたということは魚の活性が上がってきている可能性が高そうです。
その後スプーンに大きな魚が掛かりました。
釣れると確信してしまっているところでルアーだけが吹っ飛んできてしまったので
「へぁ・・・」
と情けない声が出てしまいました。
実はこの時、デカいニジマスのダッシュに備えてラインやドラグを「ゆるめる」ことを考えてしまった・・・なんて言い訳はやめておきましょう。渓流ルアーでは自動フッキングに任せてしまうことが多く、今回も強くフッキングをしていないというミスに気づいたのはバラしてしまった原因を振り返った2日後のことでした。
ゆったりと流れに乗りながら根に潜ろうとする引き方は、ニジマスでは無さそうでしたが、では何の魚か・・・。
「次こそはちゃんとフッキングするぞ」と心に誓ったものの次は一切起きることなく、北海道の釣りは終了の予定でしたが・・・。
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旭川の宿で目が覚めて、今日は新千歳を経由して飛行機で帰宅する予定です。
そう言えば・・・旭川駅の徒歩圏内に忠別川が流れており、旭川のホームレスはここでデカニジを釣って、焼いて食っていると聞いたことがあります。
なんと幸福なホームレスでしょうか・・・。私ができないことを全て成し遂げているのは日本最北端のホームレスでした。
ホテルからルアータックルを持って川に到着し、強い流れに苦労しながらもスプーンを流していると、大きな魚が掛かりました。
魚のサイズ以上に川の流れが強く、右腕がパンパンになって竿が手から離れそうになった時にようやく魚が姿を現しました。
今回もサクラマスのようです。素晴らしいピンク色ですね。
ところで旭川のホームレスもサクラマスが釣れた場合、真面目にリリースしているのでしょうか。やはり彼らも衣食住パックのチケットは重宝すると思うので、釣り上げたサクラマスをそのまま警察に差し入れしているのでは無いでしょうか。