ビワマスを合法的に釣る方法と言えば、船から垂らしたルアーを引っ張るトローリングが知られています。
自分で船を持たない場合はフィッシングガイドとボートレンタルの抱合せで1人10,000円~30,000円程度のサービスが一般的になっていますが、この釣りでは場所選びは船長任せ、キャストをしないのでやるべきことはリールを巻くだけという、釣り人からするとおよそ風情の無い作業になっているため敬遠している人も多いようです(私はやったことないですが)。
一方、あまり知られていませんが陸上からビワマスを合法的に釣る方法があり、それは産卵遡上で川に入ってきたビワマスを冬に狙うという方法です。遡上の中心である10~11月は川での釣りは禁止されていますが、12月以降は河川での釣りも採捕も許可されているのです。
これに対して釣りをしない方からは
「産卵しにきたビワマスを釣るなんて可愛そうだ」
という意見があります。ただ、遡上の中心は11月までで終わっていることと、後半にのぼってきたビワマスが前半で産卵したビワマスの産卵床を掘り返すことが一般的になっている(遡上するビワマスの数に対して産卵に適した場所は少ない)ことを思うと、12月以降に遡上してきたビワマスを釣ろうが獲ろうが全体の個体数にそれほど大きな影響を及ぼし得ず、批判は悲しきおっさん達の嫉妬である。
そんな身勝手な論陣を張り、2021年12月上旬に竿をかついで川へと向かいました。
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初日に小河川でビワマスを発見
気温が上がってきたお昼前に小河川へ入ると、まさにビワマスが泳いでいます。
ビワマスは幻の魚という印象がありますが、時期を外さずに遡上する川に行けば、ほぼ確実に見ることができるほどの量は遡上してきています。
これまで遡上してきたビワマスに対してルアーを投げたことはありませんでしたが、おそらく闘争本能むき出しになっているビワマスにルアーを投げれば、釣り上げることはさほど難しくないでしょう。
緊張しながらビワマスをめがけてルアーを投げ込みますが、まるでテレビを見ているお父さんのように身動きもせず、ルアーを見もしなければ逃げることもありません。
このビワマスは寝ているのだろうかと別の個体に狙いを移しますが、他のビワマスも達もルアーを落ち葉だと思っているのか、何の反応も示しません。
釣り堀でたまに見かける、あの「絶対に釣れない魚」が100%を占めている状態です。遡上してくるビワマスは全く食欲を失っている状態と言われるので、毛鉤や餌で食わせることなど余計に難しいでしょう。
諦めて帰ろうかとも思いましたが、ビワマスを釣るために4日間家を空けてると伝えてきたのに初日の昼過ぎに帰ったのでは、東京物語の杉村春子のような顔で妻から
「なんや、もう帰ってきたんかいな」
と言われるに決まっています。
彼女のためにも、時間つぶしのつもりで他のルアーを試してみます。
そう言えば釣りをしないという魚好きの方から「大きなルアーを使ってみるのはどうでしょうか。バス釣りで言うところのビッグベイトのような」と、いうアドバイスをもらったことを思い出しました。
普段使うことの無い12センチほどのルアーを不器用に投げ込んでみると、護岸にぶつかって良いところに落ちてくれました。
体に引っかかったのではと思いましたが、しっかり口に掛かっています。
今までビワマスを観察していた10~11月は禁漁期間だったため、川沿いで指をくわえながら彼らの産卵を応援するニセ紳士を演じるしかなく、ビワマスを釣ることなど一生無いかと思っていたので信じられない気持ちです。
ビワマスを釣ることに良い感情を持っているはずもないのに、そのサービス精神でルアーのアドバイスをくれたカメラマンのイノウエさんに感謝です。
その後、別の川に移動してビワマスが溜まる堰堤をのぞき込んでみると、白いジャンパーを着た男性が網を使ってビワマスを探し回っています。この時期のビワマスは栄養が全て精子と卵に行っているため、食べると言っても煮付けにでもしないと食べられないと聞きます。
彼はそんな味の良し悪しなどに一切構わず、まさに残飯を漁る浮浪者のような勤務態度で川の中を歩き回っています。そんな彼の横でルアーを投げるわけには行かず、初日のビワマス釣りを終了しました。
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無残な2日目
気温は昨日にくらべてかなり低く、山には雪が被さっています。
昨日の夕方にビワマス捕獲者がいた地点をのぞいてみたところ見覚えのある白いジャンパーの男性の姿がありました。
昨晩、現地の方から仕入れた情報によると彼は毎日長時間川でビワマスを捕り続けている人らしく、近所の方からも好機な目で見られているようでした。
収入はわずかな年金、女には相手にされず、毎日の天気以外に何の変化も無い田舎での毎日に飽き倒し、年に一度のビワマス捕獲だけを楽しみに生きているのでしょう。かすかな侮辱を隠しつつ土手から彼を見ていると、彼もこちらに目をやりました。
(おや、昨日の夕方も見た顔やな。汚い髭面にボロボロの服装。釣り竿片手にカメラ2つも首から下げて、とりわけyoutuber崩れの食えへんブロガーちゅうとこやろ。釣れる見込みは無いけど家に帰ると家族から煙たがられるから仕方なく川を徘徊してるんやな・・・。可哀想に。)
彼の的確な推察と軽蔑の目線に私は大いにたじろぎ、別の川へと向かいます。
その川はいつもよりひどく濁っており、水も多いようでした。私が見た範囲では昨日は大雨などは降っていませんでしたが、この川の源流域での局地豪雨か大雪が増水と濁りをもたらしたのだと鋭く観察しました。
従って、この川にビワマスの遡上が集中しているはずです。川がコーヒー牛乳色のため姿は見えませんが、足元にうじゃうじゃ群れているであろうビワマスに向かってルアーを投げ続けますが、全く反応がありません。
おかしいなと思いながら上流へと歩いていると、山の方から
「ガシャコーン、ガシャコーン」
という大きな機械音が聞こえてきました。川でガシャコーンということはもしかしたらと思って近づいてみると、まさにショベルカーで派手に川を掘り返しており、工事現場の上流は別の河川のように透き通っていました。
私が鋭く予測した大雨でも増水でも無くただの河川工事だったことに愕然とします。
上流側の透明な河川でもわずかなビワマスしか見つけられず、当然釣果にも結びつきませんでした。
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恥ずかしい3日目
3日目、朝イチで訪れた川をのぞいてみるとクリアな水の中にビワマスの姿があります。
遡上したビワマスは仲良く群れている時間も多いですが、この日はビワマス同士が追いかけあっている状態で水中が騒がしくなっています。
このような状態であれば、食欲のないビワマスに対しても、大きなルアーを通して闘争本能にはたらきかければ、食ってくるに決まっています(やったことはないですが)。
忙しく動き回っているビワマスに向けてルアーを投げて、こちらに引いてくるときに気が付きました。彼らは忙しく動き回っているので、ルアーが水面に落ちてウネウネやっている時には、すでにビワマス達はルアーを置き去りにして遠くの方に移動しているのです。
そんな単純なことに10投目くらいでようやく気付いた私は、狙いやすそうな定位しているビワマスに狙いを定めます。
大きなルアーを投げるのは面倒なので、小さなシンキングミノーに持ち替え、30回ほど投げ続けたときにビワマスがルアーに反応しました。
初日から引き続き、魚を取り込むための網を持っていないので浅瀬に移動しようとしたところ結局バレてしまい、ビワマスは何事も無かったかのように同じ場所に戻っていきます。
うまく取り込むことは出来ませんでしたが、再度ビワマスにルアーを食わせることが出来たことを無邪気に喜んでしまいました。
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その後河川をウロウロしていたところ、知り合いの写真家の方に遭遇します。彼もビワマスを追って同じ河川に来たのだとか。
とうの昔に釣りからは卒業して写真を撮る側になり、より純粋にビワマスを愛する彼は、産卵遡上時期に愛する魚を傷つける秋のビワマス釣りと捕獲を強く憎んでいるようです。しかし人間に対しての純粋さと紳士さを併せ持つ彼は、釣り竿を持って現れた不届き者の私に笑顔で対応してくれ、貴重なビワマスの情報を置き土産に去っていきました。
釣りを終えて帰宅した後、その写真家からメッセージが届いていました。
「カップルのビワマスは狙わないであげてね笑」
彼と遭遇したのは川から離れた駐車スペースだったため、私の釣り姿は見られていないつもりでしたが、私がペアのビワマスに対してルアーを投げ続けていたところを不覚にも見られていたようです。
この釣りを終えた後に気付いたのですが、遡上魚釣りをする人の中でもペアになっていて産卵が間近に迫っている魚は狙わないという信条で釣りをしている人がいらっしゃるそうです。
私は正直なところそんなことはみじんも考えず、魚が食ってくるかどうかにのみ興味を集中させ、まばたきも忘れてペアにルアーを投げ続けていました。
そんな清々しいばかりの恥ずかしい姿をビワマスを誰よりも愛する写真家から見られていたのは、我ながら痛恨です。
ただし、確かに産卵直前の魚を狙うのは可愛そうな気がする一方で、産卵の大部分である11月を過ぎたビワマスをキャッチアンドリリースすることがビワマスの個体数全体に与える影響はかなり軽微でしょうし、さらに倫理面から考えても、食糧にするために家畜をさんざん太らせて無残に殺し(殺す瞬間、とてつもない悲鳴をあげるらしい)、快適な生活のためだけに植物から昆虫まで殺戮している身(間接的に殺しているものも多い)として、産卵直前のビワマスだけ「可愛そう」と言って自然派ぶることにも違和感を覚えてしまいます。
来年からビワマスと釣りでどう向き合うのか悩ましいですが、現在のように一定レベルのビワマスが遡上している状態であれば、おそらく来年もペアのビワマスに向かってルアーを投げ続けるでしょう。
ビワマスの釣り方と道具【詳しい人に聞きました】
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