滋賀県湖北の河川でビワマスの稚魚探し
昨年の秋、滋賀県の湖北にある河川でビワマスのサトミ(と勝手に命名)が産卵しました。2月になれば卵が孵化するという情報を聞き、サトミの産卵床の近くにビワマスの稚魚を探しに来ました。
私はビワマスの稚魚を見たことが無いのですが、この本によれば
ビワマスの稚魚は「アユと比べると動きが鈍く簡単に網に入ってしまう」そうです。
普段から渓流に潜むヤマメやイワナをめざとく発見しては、丹念に釣り損なっている私であれば動きの鈍い稚魚を見つけることなどたやすいものでしょう。
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昨秋にビワマスが産卵したポイントへ
雪をかき分けて川に降り立ったとき、気が付きました。川のどこを探せばビワマスの稚魚が居るのでしょうか?
社会生活に必要なレベルの知能さえ備えていればポイントを絞ってから川に入るのだろうと思いますが、まともに社会生活を営めていない私は川に降り立つまでそんなことも考えず、
「川に行けば、金魚鉢の金魚のようにゆったり泳ぐビワマスの稚魚が見つかる」
と、敬虔な修道女のように固く信じていました。
寒風に吹かれながらビワマス稚魚の付き場について改めて思考してみると、泳ぎはまだ上手では無いので、餌は流れてくるけれども流れが速くないところに居るでしょう。
ビワマスの稚魚のサイズについてはどうでしょうか。まだ孵化したてのはずなので1~2センチくらいでしょうか?メダカくらいの大きさを目安にその姿を探してみますが、見つかりません。
川沿いの護岸に腰掛け、以前ビワマス観察に同行させて頂いたことがあるイノウエダイスケさんに質問します。
イノウエさんは京都を拠点に淡水魚の撮影に取り組まれている方で、下に掲載したような印象的なビワマスの稚魚も撮影されています。
ビワマスの稚魚を探すコツをご質問すると
- ポイントは流れが無い浅い場所
- 魚の大きさは小指よりやや小さい
とのことです。探すべき場所も魚の大きさも私の想定とは大きく異なっていましたが、知識さえ身につければ問題無い・・・。と思って改めて水辺を探しますがそれらしい魚は見当たらず、初日の観察を終了しました。
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渓流釣りに方針転換
渓流釣りの解禁日は全国的に3月1日に設定されている地域が多く、滋賀県でも同様です。しかし滋賀県の漁協が無い河川では10/1~11/30を除く期間であれば、いつでも渓流釣りが出来るルールになっています。
本日は2月26日です。お散歩を待つ忠犬のように真面目に3月1日の渓流解禁を待ち続けている人たちに一足早く釣り上げたアマゴを見せつけることで、渓流釣り人としての格の違いを見せつけてギャフンと言わせるのも悪くは無いでしょう。
ビワマスの稚魚観察の予定を急遽変更し、ビワマスが居る下流側から山の方に車を走らせます。
積雪が心配されましたが、渓流は道路のすぐ横を流れているので、道路さえ閉ざされていなければ川に入ることは出来るでしょう。力強く車を進めていくと、山に近づくに連れて雪の高さが壁のように立ちはだかるようになりました。
カーナビを見る限り、川は車の右側を流れているようです。この雪を除けば確実にアマゴやイワナが居る河川に出られる・・・。
しかし背丈より高い雪を忠犬のように掘り進めたとして、川に到着する頃には夏が訪れているかもしれません。
結局、美しい雪景色を見ただけで来た道をそのまま引き返すことになりました。ギャフン。
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ビワマス稚魚探しを再開
川の下流に引き返し、ビワマスの稚魚探しを再開します。
水がほとんど動いていない浅瀬に注目していると、メダカサイズの魚が見つかりました。
この大群がビワマスだと信じて感動していましたが、よく見るとそのほとんどはビワマスに特徴的な楕円が連なるパーマークが無く、その後知人に確認したところ、これはカワムツである可能性が高いとのことでした(赤丸の位置にビワマスも混じっていましたが)。
カワムツ・・・。渓流釣りの際に漏れなくお世話になっている、「渓流の女王」ならぬ「切るに切れない清流の腐れ縁」です。
カワムツをビワマスと勘違いして夢中で撮影していた自分にいつも通りうんざりしながら移動すると、先程の稚魚より大きな、小指サイズの魚が見えました。
思ったよりウネウネと泳いでいるので別の魚かと思いましたが、どうやら私が目当てにしていたビワマスの稚魚のようです。
カワムツとは明らかに違い、可愛いパーマークとトラウト特有の神経質を放出しながら、わずかな時間だけカメラの前に姿を見せてくれました。
写真家さんのように上手には撮影できませんが、その姿を捉えられただけでも上出来です。
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再度渓流へ
魚が釣れないどころか釣りすら出来なかった前日の渓流釣りの汚名を返上すべく、湖北よりも雪が少なそうな湖西の川に移動しました。
こちらは山道に入っても道路に雪はなく、路肩に少し積もっている程度です。これなら渓魚が生息する上流まで車で進み、川まで降りられるでしょう。
しかし標高200メートルを過ぎたあたりから、道路にも雪がしっかり積もり出しました。除雪車も来ていないのでしょう。
父親から借りた車はスタッドレスタイヤを履いているそうですが、後期高齢者の父親の言葉を鵜呑みにしても良いものか、雪道を前に不安がよぎります。
しかも私は雪道に慣れていないので、どの程度の雪であれば車で進んで良いのかも不明であり、さらに山道にはガードレールが無いため、もし車がスリップすれば下山した先が地獄になっている可能性すらあります。
それでも「わざわざここまで来たのだから」という貧乏性が顔を出し、標高300mまでこわごわと突き進みます。
車を停めてなかば滑落するように川まで降り、水辺を歩きながら渓魚の姿を探します。
しかし雪解け水が盛大に入り込んだ水は4度の冷たさで、魚は深場に潜んでいるのか、毛針に食いついてくることも水中カメラの前に姿を見せることもありませんでした。
下山した後、湖北の宿のオーナーと言葉を交わします。私は雪国で暮らす彼に
「街の雪化粧が綺麗ですね」
と声を掛けました。すると彼は
「ええもんやろ。雪が全部汚いもんを隠してくれよっさかいに」
と、滋賀県特有の言葉遣いとともに自慢気に笑いました。
この日の前日、ロシアがウクライナに向かって侵攻を開始しました。
海の向こうにも、美しい雪景色が戻って来ますように。