こちらは2021年の記事です。
10月28日の午後14時過ぎ、滋賀県北部の河川でビワマスの産卵シーンを撮影することができました。
この場面で産卵に参加したビワマスは全部で4匹ですが、一番最初に産卵床についた鼻先が丸いビワマスがメスで、それ以外は全てオスです。
私はこの場面だけを見て「このメスのパートナーは産卵時に最初にメスの横に入った手前のオスで、それ以外は飛び入り参加(いわゆるスニーカーという役割)のオスなんだろうな」と勝手に思っていたのですが、映像を見返すとオス達の序列がそう単純では無かったことがわかりました。
登場するビワマス
今回の産卵に関わる4匹のビワマスをご紹介します。
サトミ
この映像で卵を産んだメス。鰭も体も綺麗で産卵時によく見られる白いカビ(産卵にエネルギーを集中させるので免疫が極端に落ちる)もついていない。右のエラ蓋の赤黒い跡が特徴的な地味な顔。
ふる里への遡上を連想させるやや古風なサトミと命名。
クロウ
産卵時に最初にサトミの手前に入り込んでいる。多くの時間でサトミのペアを勤めた。各鰭がボロボロで、体には白いカビも目立つ。
鰭に苦労人の跡が見て取れ、体もやや黒いことからクロウと名付ける(ネーミングセンス・・・)。
タケシ
やや体高があり、体の模様もヒレも整った眉目秀麗なオス。産卵時の動画ではクロウの次にサトミの横に入っているが、産卵直前で興味深い役回りを演じていた。
メガネ
顔が白くてシャープ。鰭が綺麗で若々しい印象。目の横に濃い線がありメガネのよう。産卵時には最後列から飛び込んできて産卵に参加(スニーカー)。ひ弱そうに見えたが産卵が終わった後で想定外の獰猛さを見せる。
さらに上記の他に3~5匹ほどが入れ代わり立ち代わりサブキャストを勤めていました。
* * *
産卵時の立ち位置
今回は私にとってサケ科を含む魚の産卵を初めて観察する機会でした。
事前知識として、オス同士が序列を作って最も優位なオスがメスのペアとして君臨し、その他のオスは別のメスを目指すか、もしくは周囲にじっと潜んで産卵時だけ現場に飛び込んできて精子をかける、という話くらいは認識している状態でした。
「ペア」とよぶ際の明確な定義があるのか不明ですが、最もメスの近い場所に居る時間が長く、他のオスを追い払っているオスを「ペアのオス」と呼びたいと思います。
私はあるメスに対してペアになるオスが絶対的なポジションを確保しているのだと思っていましたが、産卵前の動画を見直してみると一時的にペアが入れ替わる時間帯が有ることに驚きました。
まずは再度、産卵する14時22分のシーンから。
クロウが最初にサトミの手前に入り込み、わずかに遅れてタケシが奥側に陣取ります。産卵が始まって(動画の0分14秒)からわずかに遅れてメガネが入り込んできて、一瞬のうちに産卵は終了しました。
私はこの時最初にサトミの横に入ったクロウがペアだとばかり思っていましたが、産卵の2分前には違う光景をカメラは収めていました。
産卵2分前のペアはタケシ
産卵前の動画を見返すと産卵の2分前、クロウが他の雄を追い払っているスキにタケシ(鰭が綺麗でやや体高あり)がサトミの横に入り、タケシがペアの席について他のオスを追い払う行動を見せています。
クロウはいつの間にかペアになっていたタケシをサトミの横から追い払うことをせず(できず?)彼らのまわりをウロウロし、産卵1分前には逆にタケシから追い払われています。
画面から切れていますが、タケシの前に回り込んだ鰭がボロボロのクロウが40秒から50秒のところで2度タケシから追い立てられます。
そして産卵時にはクロウはややスニーカーのような立ち位置で産卵に参加することになりますが、産卵の数秒前にタケシがメガネを追い払っていたため、産卵時にはクロウが運良くタケシより少し先にサトミの横に入っています。
産卵150分~2分前までペアはクロウ
ではタケシの前は誰がペアだったかというと、動画を遡ると産卵の2時間半前あたりからクロウがサトミの横に付くことが増えていることが確認できます。
恐らくそれまではカメラが捕らえていない場所でオス同士の攻防が繰り広げた結果、クロウがペアの位置を獲得したのだと思われます。
クロウはサトミに近づいてきたオスに対して、音が出るほど痛烈に頭突きを食らわしています。
オスによるメスの獲得競争は大きさで決まると思っていましたが、タケシよりも体が小さく傷ついているクロウがペアを張ることが多いことから考えれば、体の大きさや強さ以外の要素も重要だと考えて良さそうです。
では産卵の150分前から2分前までは常にクロウがペアの座に居たのかというとそうとも言い切れず、ペアの座が曖昧になっている時間も多く有るように見えました。
例えば産卵の1時間前、産卵床に尻鰭を沈めて確認しているサトミに6匹のオスが関わっていますが、この時はメガネが最も良い位置についており、クロウはやや遅れてこの集団に割り込んできています。
さらに産卵の2時間半前の時点ではメインペアになるクロウの姿はなく、タケシとも異なる別の2匹の雄が立ち代わりサトミに近づいて産卵を促していました。
産卵後
産卵後は近くに産卵床を作って産卵することが多いと聞いていましたが、サトミは一度目の産卵を終えて砂礫をかぶせた場所とほぼ同じ位置に尻鰭を入れています。
ペアは産卵前に長時間ペアだったクロウでも直前でペアになったタケシでもなく、先の産卵に最後尾から入り込んだメガネに代わっています。
産卵から25分後の映像では、メガネが他のオスにかみついて激しく追い払っています。
また、ペアとして産卵したオスは別のメスを探しに行くと言いますが(同じペアで産卵を繰り返しても効率が悪い)最初の産卵でメインのペアだったクロウはたまにサトミにすり寄っており、一方で直前でペアだったタケシは産卵後には姿が確認できなくなりました。
その後日が暮れてしまい、残念ながら二度目以降の産卵は観察できず、翌日にはオス同士の戦いも止んで水中は静かになっていました(産卵を終えたのでしょうか)。
産卵観察を終えて
今回のサトミを巡る攻防に関しては、ビワマスのペアは終始一貫しているというよりも多少流動的になっていましたが、これはビワマス含めたサケ科に共通して言えることなのか、サトミ界隈に限ったことなのかはわかりませんので改めて観察を試みたいと思います。