前日、私一人だけ釣れないといういつもの惨めな想いを味わった私は、3日間だった釣り遠征の予定を4日に延長して川に向かいます。昨日川でお会いした彼も既に到着していました。
昨日は彼がビワマスを4匹釣り上げた一方で私は1匹も釣れなかったので、今日は私が釣る番です。
かじかむ手で釣具を用意していると、横でバシャバシャという音が聞こえてきました。水浴びでもしているのでしょうか?
なんと、早速ビワマスを釣り上げてしまったようです。ルアーが体に引っかかったことをわずかに祈ってしまいましたが、しっかりと口に掛かっています。
私が昨日、1日かけてしえなかったことを、彼は2分でやってしまいました。
す、すごい、、
今まで釣り上手に粉砕され続けた我が釣り人生でしたが、まだ粉々にする小さな粒が残っていたことに驚かされます。
彼はビワマス初挑戦とは思えないほど次々とビワマスを釣っており、現地の釣り人も釘付けになっている状態です。
私も彼に教えてもらい、なんとか1匹ビワマスを釣り上げることができました。
ここでようやく思い出したのですが、彼は私からビワマスについての有料記事を購入した側の人物です。
今回のケースにあてはめれば、テニス上達ノウハウDVDを買った側の人が売った人に対して手取り足取り、ラケットを振らせている状態です。
私「こんな感じですか」
彼「いえ、リールを巻かずに魚に近づけてください」
彼は私がなんとか一匹釣り上げる間に、恐らく10匹ほど釣っていました。彼の操り人形と化しながら、私が販売していた有料記事が「ビワマスの釣り方」ではなく「ビワマスのポイント」であって本当に良かったと安堵し、ビワマス釣りを終了しました。
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ここで、今回の釣り遠征で出会ったビワマス捕獲にまつわる奇妙な方々をご紹介します。一般的にはビワマスを捕獲する主な方法は投網と釣りですが、今回それ以外の方法でビワマスを捕まえる、かなり変わった方々にお会いしたのでご紹介します。
ビワマス手掴み職人
ビワマスが遡上する滋賀県の河川では川の両岸にアシという草が茂っていることが多いですが、漁師が投げる投網が入らないことを知って、ビワマスはアシの下に隠れる習性を持っています。
彼はアシの下で隠れるビワマスにそっと近づき、ビワマスを手づかみで捕獲するのだそうです。
「尻尾とエラ蓋を外から押さえれば身動きしなくなるので、結構簡単に捕まえられますよ。誰でも出来ます。」
朴訥とした感じの彼はこともなげにそう言うので「誰か真似出来る人は居たんですか?」と問うと、
「いや、ちゃんと教えてるのに一人も出来んかったです」
とのこと。それはそうでしょう。昨年手掴み漁を実施したときには川沿いに地元の漁師まで集まって「名人」の称号を得たのだとか。
この日は濁りと増水の影響で手づかみ実演を見られなかったので真偽のほどは定かではありませんが、彼が見せてくれた写真では1日に20匹ほど捕まえた日もあるようでした。
かっぱ兄さん
急流の中を足ひれを使って器用に泳ぎ、細長い棒の先に付けた大きな釣り針のようなもので引っ掛けて捉えるのが通称「かっぱ」兄さんです。
黄色いサーチライトを照らしながら自在に泳ぐ姿から、彼が常人ならざることは素人の私にも一目で伝わりました。
その動きは人間とは思えないほど水中で最適化されており、陸上で少し言葉を交わして受けた印象としても「人間社会で本当に生きて行けるのだろうか」と、このニートが心配になるような不思議な対人感受性を持ったお方でした。
大企業で普通に生き、出世したりしながらローンを組んでマイホームを手にするような生き方を選択する可能性は皆無という感じの方で、このニートは勝手に共感してしまいました。
このように、遡上したビワマスをめぐって釣り人、投網、手掴み、さらにはかっぱまでが競合する現場ですが、意外にも獲物や場所の取り合いでトラブルになることもなく、お互いに情報を出し合って楽しむ平和な現場が私の知る限りでは拡がっていました。
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2021年に始めてビワマスを釣り上げたときの釣り記録はこちらです。