一般的な渓流の解禁日である3月になったので、急き立てられるように滋賀の漁協が無い河川を目指します。(今調べたところ、滋賀の無漁協河川なら1月でも2月でも渓流釣りが出来たようです)
3月上旬にしては温かいとはいえ、まだ水温は低いので浮かせた毛針には魚は出てこないでしょう。となると餌釣りが選択肢に入ってきますが、餌釣り用の餌を買うのはもったいないし、川底の石をひっくり返して虫を拾うのも手が冷たそうなので、自宅にあるもので済ませよううと思います。
そう言えば解禁時にはイクラがよく釣れると昔誰かが言っていたような気がします。
冷凍庫にあった塩イクラを取り出します。
水産会社に勤める友人が社割で購入して「誕生日祝いだ!」と男気風情で送ってきてくれたものの、なぜか着払いになっていた因縁のイクラ・・・。それ以降忌まわしき物品として冷凍庫の奥の方に仕舞っていましたが、値段を見た途端に彼の評価は急騰です。
友人としての価値を貨幣換算する私は、そんな高級イクラを20粒のみ持参して出かけます。
今日目指す河川は電車でアクセス出来るポイントです。駅から山道を歩くこと1時間、汗びっしょりで湯気を立ち昇らせながら、ようやく現地に到達しました。
イクラを付けて沈める釣りなのでエサ釣り用の針をセットしなければなりませんが、針を替えるのが面倒なので昨秋に付けられたままの毛針におもりとイクラをぶっ刺して流してみます。
しかしイクラを針に刺すという行為は想像以上に難しく、小さな衝撃でシャボン玉のように中身がだらりと流れ出てしまいます。
ヤマジュウのイクラ・・・。悲しみでうち震える指でなんとかセットしたイクラを流してみますが、何の反応もありません。
水底には魚のような何かが動いているような気がしますが、気のせいか・・・。
↓はその時撮影していた水中カメラの映像です。
それにしても水中で餌を自然に流すのって、難しいな・・・。本来は餌が先に流れるようにしないといけないそうですが、川の底は流れがゆるく、表層は速いのでどうしてもオモリが先行してしまいます。
しばらくイクラでの釣りを続けてみましたが、魚の反応は得られません。
それにしても餌用の針ではなく毛針にイクラを刺し、さらに川べりまで降りずに高い道路の上から竿を出すというのは何たる横着な釣りでしょうか。釣果や釣り方に真剣に向き合っている上昇志向・成功思考の方には「釣りの神への冒涜だ」怒られそうですが、かまやしません。先日も私が安い道具で適当にタナゴ釣りをしている動画に
「真面目にやれ」
というクレームを頂きましたが、どうやらある種の人にとって釣りとは茶道や剣道のような釣り「道」で、生き方や精神に連なるものとして、軽く扱うことを許したくない「修行の一環」になっているようです(もしくはそのように捉えさせることで高価で「正しい」道具を売りたいという業界の思惑もあるでしょうか)。
しかし私にとって釣りはただのヒマツブシです。例えばあらゆる石に人格を与えて
「これは貴族っぽい」
「君は柔軟性に欠けるカタブツだな・・・」
と決めつけて遊ぶ人が居るとして、彼がその趣味に正しさを求めたり人生の真髄をつかみとろうとしているとすれば、いよいよ気味が悪いでしょう。それと同じです。
* * *
その後もイクラを握りつぶしては捨てるような釣りを続けていると、水面で魚が跳ねているのが見えました。地面に這いつくばって魚の模様を見てみると、アマゴのようです。
最初に魚が水面をついばんでいるのを見たときは「こんな浅瀬にアマゴが居るはずが無い」と確信してしまいました。しかしよく見るとアマゴがまるで養魚場のニジマスのように浅瀬に列をなし、さらに流れてくる餌に体を空中に投げ出して飛びついていました。
自分の数少ない引き出しで魚の動きを想定していた自分に悲しさを覚えます。数えてみると、陸上からの目視でも10~15匹くらいのアマゴが見えていました。
そう言えば私が学生だった頃に水産学科の先生が「生物は常に正しい」と言っていました。「机の上で考えた仮説よりも現場を見ろ」という生命科学の基本を教えてくださったのか「基本的にお前は間違えている」と言いたかったのかは今でもわかりません。
・・・言ってくれるじゃないか、あのノロマ親父。
* * *
魚が水面を見ているなら釣り方は単純で、いつものように毛針を浮かせるチョウチン毛針釣りで何とかなるでしょう。餌釣りのように沈める深さで悩んだり、アワせのタイミングで困ることは無く、眼の前の毛針が無くなれば竿を上げればおしまいです。
と勝ち誇ったような気分で毛針を流してみますが、魚の反応はありません。
まだ釣りをして2時間ほどですが、自分は昨年の秋で釣り方を忘れてしまったのではないか?今年は一匹も、さらに言えば今後一生魚を釣れないのではないか?と不安になってきます。
ついでに言えば昨年までも何も釣れていなかったような・・・
しばらくすると、霧が立ち込めてきました。電波が入らないのでこれからの天気予報がわかりませんが、もう帰った方が良いのかな・・・。帰りも1時間ほど歩くし、車では無いので服を乾かす空間も無いし・・・。
などと思っていたら、唐突に釣れました。
アブラハヤみたいに小さなアマゴですが、大満足です。
その後は毛針を浮かせたりルアーを引いたりしてみましたが、石の個別の性格でも見抜いていた方がマシだと思えるほどの不毛な時間でした。
暗くなってきたので竿をたたみます。
さて10粒ほど残った塩イクラ、どうしようかな・・・。捨てるのは忍びないし、一度持ち出したイクラを持って帰るのも奇妙だし・・・。ぐずぐずと後悔しつつ、雨雲から逃げるように山を降りました。
当日の釣りの前編は動画でもご紹介しています。また釣り場は有料記事に記載しています。
【竿】ダイワリバティクラブ 5.3メートル
実売価格は5,000円~8,000円程度です。安いですが全く問題なく使えます。
【ライン】実売400円の安いライン0.8号
【毛針】サイズは14番くらいを使っています
チョウチン毛針釣りの方法と道具についてはこちらでまとめています。
チョウチン毛針釣りは簡単な道具と動作で楽しめるので、ルアー、フライ、テンカラなどで行き詰まった私のような釣り人にもってこいの方法です。