かろうじて青森での初イワナを釣り上げた翌日は青森県西部の鰺ヶ沢近くを流れる赤石川に向かいます。まずは鰺ヶ沢にあるラーメン屋に入りました。
メニューを見てみると、ラーメン700円で丼セットが1150円。私も今田くんも男性にしては食が細いので量の心配はありますが、450円追加で小丼も食べられるならと、セットを注文します。
老夫婦はいつもの調理を淡々と進めているように見えながら、料理を作りながら小さな声で
「フフフ」
と静かに笑い合っています。毎日の単調な業務に何か楽しいことでも潜ませているのか、見ているこちらまでにこやかになってしまいます。
そんな微笑ましい光景を作ってくれているお二人が仏様のような表情で我々のテーブルに置いたのはラーメンに添えられた小さな丼・・・かと思いきや、フルパワーのカツ丼でした。450円の追加でまるまる一人前の丼を出してくれるとは、どういう計算でしょうか。カツ丼一人前が900円と書かれているので、セットにすることでカツ丼が半額になってしまったのか、それとも900円のカツ丼は特盛2人前サイズなのでしょうか。
やや少食の我々と言えども、お二人の優しさで出汁を取ったようなこのラーメンとカツ丼を残すわけにはいきません。
口に入れてみると、大盛り自慢の店かと思いきや味の良さに驚きます。しかし後半は二人とも白目をむいて冷や汗をかきながら、なんとか胃に詰め込むことが出来ました。優しさは時に暴力的です。あるいは、我々が苦しむことを確信して二人で
「フフフ」
と笑い合うという、底意地の悪い遊びをしていたのでしょうか。というのは考えすぎでしょう、とても素敵なお店でした。
* * *
この日は「金アユ」で有名な赤石川に入ります。ここは魚種も多い優良河川ですが、養殖場が近くに有りそこから逃げ出したイトウが泳いでいる可能性もあるそうです。
ルアーを投げながら散策していると、川のサイズに似つかわしくない複数の大きな魚が回遊しています。
【有料記事】青森赤石川で脱走イトウ?が居た場所をピンポイントでご紹介
映像でははっきり映っていませんが、イトウと見て間違い無さそうです。
しかしルアーを通しても少し顔をそちらに向けるだけで、追ってきてはくれません。薄暗い時間帯か、活餌で狙えばチャンスはあるかな・・・。イトウを諦めて釣りを続けますが、魚の反応はあるのに、なかなかルアーに食ってきてくれません。
今日こそ私が最初の一匹を釣るのだ!・・・という気概はもはや皆無で、友人に先に釣って頂いて今日の釣りのヒントを得るべく、白旗万歳で先行してもらいます。但し、後塵を拝している私が最初の釣果をものにして
「先にポイントだけ荒らすなんて、藤井名人も節操が無いね」
などと言い放ってやるのも一興・・・と思っていましたが下剋上は叶わず、あっさり友人が最初のヤマメを釣り上げていました。
きれいなヤマメ・・・と感動してしまうと敗北が決定的になるため欠点を差がいた所、尾鰭の一部が欠損しているのを見つけました。
「なんだ、放流ものじゃないか」
「餌付けされた魚を釣りに、わざわざ青森に来たわけじゃないんだよ」
などとネチネチ指摘することで心の平穏を取り戻そうとします。あぁ惨め。
それでも、一通り嫌味を言っていると釣果では負けていても不思議と気分的にはイーブンになりました。その上で彼がどんな釣り方でヤマメを仕留めたのかを背後からこっそり観察していると、背中越しに
「ナチュラルカラーのミノー」
と大きな声で言われ、ビクッとします。ATMで背後から預金残高を覗こうとしてたら、振り返って両目を見据えて
「4億」
と発表されたとすれば、こんな感じでしょうか。
教えて頂いた残高を参考にして釣りをしたところ、小さなヤマメが一匹だけ釣れました。
しかしその後も友人ばかり釣れるので、イライラ・・・。でもイライラしてしまうと、同行者が釣ると露骨に期限が悪くなる武藤くんになってしまう、武藤くん武藤くん・・・と思って怒りと付き合っていると、同行者がひどいライントラブルを起こしているのを横目で見ながらこの釣りを終了いたしました。
* * *
夜に美味しいものを食べて青森のお酒を飲めば、色々な恥ずかしい過去も忘れられるでしょう。地元の食材を美味しく出してくれるという「割烹未来」というお店に入ります。
整った店内を見回してみると、背後の本棚の書籍からまたしても怪しげな妖気が漏れ出ています。
「フリーメイソン」
「イルミナティ」
「ユダヤ人の起源」
・・・。
タイトルは正確には覚えていませんが凡そ上記のような書籍だけが並んでおり、触れると簡単に爆発する、初心者向け見え見え地雷です。私も友人もそららには触れないようにと静かに食事をしていたのですが、そもそも隣の年老いた男女が彼の思想の信奉者であるようで、早い段階からそっち系の話が開始されました。
店主「公民館ってあるでしょ?あれが設置された当時、既存の人間関係につながる神社や寺に行かせないようにという狙いで政府が作ったもので、共産主義の考え方だよ」
彼は注文の取り違えで注いでしまった日本酒を自分で飲んで勝手にスイッチを入れています。
店主「コロナウイルスって中国から出てきたって思ってるでしょ?本当はペンタゴンの軍事作戦だから」
飲食店の主役である料理人を敵に回すわけにはいかないため適当に相槌を打っていると、まだまだ言いたいことがあるようです。
店主「NASAって悪魔の組織なんですよ」
我々「はぁ。」
店主「NAとSAを入れ替えるでしょ?間にTを入れるでしょ?SATAN、悪魔になるんですよ」
驚きの構造に見せかけたいわりには文字を入れ替えただけでは足りずに一文字足してるし、ひっくり返してTを入れてもサタンにならずにサトナになる気がするし、陰謀論としても20点くらいの出来です。
じゃあNECの文字を入れ替えて「CNE・死ね」になるとして、NECは人類を破滅する企業と言うことになるのでしょうか。
陰謀論好きの人間の傾向を見てみると、一様に知的好奇心が有り「自分が頭が良い」と思っている節があるように思います。そんな彼らが「知る喜び」を刺激されているうちにこの世界に溺れていくのだと思いますが、彼らの知的好奇心がかようにお粗末なトリックで満たされているのかと思うと、二重に悲しくなってきます。
店主「NASAのマークって二本の線があるでしょ?」
私「はぁ」
店主「あれは蛇の舌なんです。つまり、悪魔の組織は人類を・・・」
最初のサタンの土台が脆いので、その上に何を建てても足腰が立っていません。
しかし我々の横に座る、何を発言しても先ほどから店主からコテンパンに否定されている男性の方は、予想外に店主への心酔を深めているように見えます。ある種の人間にとってはこういう扱いを受けると、誘拐犯を好きになってしまうストックホルム症候群的に素敵に思えるのでしょうか?
店主「テレビは私30年間観ていません。全て嘘ですから。」
客は揃って彼の機嫌を損ねないようにヨイショし、また彼は自分が信じる「真実を報じる」メディアと手取り合って30年間踊り続けた結果、このようなモンスターが青森市に誕生してしまいました。
最後に店主が人生訓を語りだしました。
「今、人生90年くらいでしょ?それを3つに分けたら30年が3つです。僕はその3つ全てで自分が好きなことをしたいんだよ」
・・・?!
なぜ90年を3つに分けて、また一つに戻した?!
煮干しの頭と腹を丁寧に取り除いて、結局まとめて味噌汁にぶち込むような話し方をする必要は、果たしてあったのか・・・。この店の名前は「割烹未来」ですが、こんな未来なら来なくて良いぞ。店に入る前よりもさらに疲労を大きくして店を出ました。













