釣りだけで人生を終わらせたくない俺、青森へ【青森渓流釣り①】

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8月半ば、まだねぶたの熱気が残る青森に渓流釣りを目的に訪れました。前半は友人と二人で釣りメインで過ごし、後半は1人で青森を観光しようと思います。

以前は例えば7日間遠方に行くとすると、余すこと無く釣りの予定を組み、悪天候の日だけは観光でお茶を濁すような過ごし方をしてきました。あれから歳を重ねて40代に入り、釣りだけで人生を終わらせたくない、もう少し文化的な旅をして死にたい、と考えるようになりました。

というかこの熊大躍進の時代に1人で東北の山で釣りをするのは怖いし・・・。うっかり1人で釣りをしてしまわぬよう、熊スプレーも友人が青森を離れると同時に返却することにしました。

 

* * *

 

友人の今田くん(仮)と夜の青森市で合流して食事処を探したところ、妙な気配を漂わせている居酒屋を発見しました。

 

のらくろ青森市

 

大将のクセの強さが玄関から通りにまで染み出しています。

のれんをくぐると、ねぶたに描かれている坂上田村麻呂によく似た、強烈な目つきの大将がカウンターに1人で立っています。いらっしゃいと言われるかと思いきや

「日本人?」

と鋭い目つきで聞かれます。

後ほどクチコミを確認すると、どれだけ流暢な日本語を話したとしても「外国人は店内に入れない」という排外主義を徹底している店のようでした。

店内には壁一面には昭和の時代を色濃く残すポスターやおもちゃの兵器が所狭しと貼られており、このお店のただ事で無さを瞬時に伝えてくれます。

青森市のらくろ店内

元自衛隊員だという強面の大将から宿泊先を問われたので伝えた所

「リッチモンドよりもっと安くて良い宿があるのに」

と言われたのでおすすめを訪ねた所

「それは自分で調べな」

と言う冷たい返答が。言う気がないならなぜトークテーマをその話題に設定したのでしょうか?今まで奇妙なお店にはある程度入って来たつもりですが、まだこんな店があったとは・・・。ちなみにこのリッチモンドホテルと同じビルに入っているパン屋に、3ヶ月前に熊が出没して「パンを食っていた」のだとか。熊が立て籠もっている間はホテルからの出入りも禁止されたという事件で、青森の中心地にあるこのビルにどうやって熊は移動してきたのでしょうか(熊は猟友会が駆除してくれました)。

そんな話をしつつ大将は

「あー面倒くさいな~。今日は客が来なけりゃNHKをじっくり観るつもりだったんだけどな~」と大きめの声で文句を言っています。恐縮しながらもおすすめの刺身を注文した所、おろし生姜がどっさり入った酢醤油にアジやホタテの刺身が浸かっているという、アジ自身も想像だにしなかったと思われる調理のされ方で運ばれてきました。

魚の味を楽しむと言うより、生姜を食べて温まるために魚を活用するという考えの地域なのでしょうか?

大将と奇妙な料理の組み合わせにやや元気を吸い取られている我々は、カウンターの隣で腰掛けている、笑顔が柔らかな1人の男性に救いを求めます。

我々が滋賀と三重と言う、それぞれ忍者の街を抱える(伊賀と甲賀)地域から来たというと、

「思い出した!」

と目を見開き、エピソードを話し出しました。

「私が青森の弘前に初めて行った時、弘前の忍者屋敷に連れてってもらったんですよ!」

話の続きを待っていると、彼はニコニコしながらこちらを見つめています。なんと、エピソードトークは早くも終了してしまったようです。

 

・・・?!

 

大声で話を開始しておきながら、起承転結の起の予感の段階で唐突に結ばれるという前代未聞の事件が起きました。コース料理で言うと、思いつきで野菜を放り込んだだけのサラダでお会計を促されるような状態でしょうか。

しかし、彼は何かを成し遂げたような、納得の表情で我々を見つめながらうなずいています。

私「あはは、色んなところに忍者はいるんですね・・・。」

まとめも決まらないのでキッチンにいる元軍人に助けを求めようとすると、彼は仕事を放棄してテレビの前に座り込み、太平洋戦争を取り上げたNHKの特集に没頭しています。大戦末期、米軍から日本軍と民間人がほぼ一方的に殺戮されていく様子に見入っていますが、元軍人の愛国者としてただならぬ感情があるのでしょう。こちらを掘り下げるとさらにひどい事故が起きそうなので、唐突なリターンパスを出してくる隣人に話を伺ってみます。

転勤で青森市にやってきたという彼は住宅メーカーでクレーム処理の仕事をしているのだそうです。人生でも最も高価な 部類の新築物件のクレームを受けているとすると、それらの処理で疲弊してしまい、その後遺症のせいで生煮えのエピソードトークで人を苦しめる症状が出ているのかと思いましたがそうではなく、彼は客観的には厳しいその仕事にとても前向きに取り組んでいる様子です。

「クレームの発言や言い方に対して、まともに反応するということはありませんよ」

「その奥にある人間性を想像して、むしろ感動することもあるんです」

クレームを全て恩師からの一言のように大切に扱い「想像して楽しむ」という領域にまで到達している、いわば仕事の達人でした。彼はそんな心の持ち方を誰から教わるでもなく、またわざわざ教えることもなく、そっと1人で大切にしているのだとか。

年齢ごとのクレームの傾向について聞いてみると、50代以上は真っ直ぐに感情をぶつけてくれる一方、40代以下は「その場では何も言わず、その後悪い口コミを書く傾向にある」と教えてくれました。

その流れを聞いてるのか(多分聞いてないと思うが)、NHKが一段落した大将が我々の前に現れました。

「この店のクチコミ、良いこと書いといてよ!」

こちらが良い点数を書こうとするような対応をしていたのかと言いたくなりますが、彼は「大事なことを言った」とばかりに決め顔でこちらを見つめています。

さて、Googleマップにネチネチと湿ったクチコミでも書こうかな・・・。

 

* * *

 

翌朝はゆっくりと起き出して、熊スプレーをレンタルして川に向かいます。

狙いを定めていた川をのぞいていると、現地の男性に声をかけられました。地域の渓魚に詳しいと言う彼に「放流魚ではなくネイティブの魚を釣りたい」と言うと深く共感し、いくつかのポイントを丁寧に教えてくれました。

彼が言うには青森にも渓流の中にキャッチアンドリリース区間を設定し、そこに巨大なイワナやヤマメを放流して高い料金を取るところがあるのだとか。

頭がカタい組合の爺さん達は釣り人は「大きい魚が釣れれば即ち喜ぶ」と考えて、そのままで素晴らしいはずの河川を釣り堀のようにしてしまったのだとか。

追加料金まで大きな魚を釣り損なうのは嫌なので、彼の教えに従ってネイティブなイワナが居るというポイントに移動します。

* * *

ここ数日間は雨も降っていなかったはずですが、川は薄めのコーヒー牛乳くらいの予想外の濁り方をしています。

「あいつ、わざと濁って釣りにならない河川を教えやがったな・・・。」

と文句を言っていると、友人が私の眼の前に投げたルアーに魚が食いついてバラしています。濁りは確かに強いのですが、自分の手が届きそうな範囲で魚が反応するということは警戒心が薄いのかもしれません。

友人と交互にルアーを投げてみると、彼のルアーにはイワナが反応する一方、私の方には何の音沙汰もありません。

そしてやはり、彼が先にイワナを釣り上げました。

青森のイワナ

 

腹立たしい・・・。

恥を忍んで、というかしのぶような恥も無く私のルアーの動かし方を友人に見てもらうと

「ちょっとアクションが大人しすぎるかも・・・?」

と指摘を受けました。渓流を愛して20年の私が渓流で5回ほどしか釣りをしたことがない彼にアドバイスを求めたあげく、気を遣った言い回しで助言されてしまいました。

彼のやり方を真似てルアーを激しめにアクションさせていると、ようやく一匹釣れました。20センチくらいかと思われますが、私の目線で言うと大物です。

じっくり魚の撮影を堪能していると、友人が早速別のイワナを釣り上げています。「魚を釣り上げたら、もう1人を先行させる流れにしよう」と話していたのに、結局釣り上げるのに時間がかかる私がずっと先行する展開になっています。

それを見かねた友人から

「藤井聡太の対戦相手みたいやな。片方だけ時間かかって追い詰められていくやつ。」

と言われてしまいます。彼は私に気を遣うこともやめたようです。

その後はルアーでの釣りは私には難しいと気が付き、毛針でイワナを釣って過ごします。

 

翌日は青森で野生化したイトウを狙います。

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