前日にスレ掛かり一匹以外に釣果無しという情けない結果を出した我々は、智頭町の北に位置する安倉川という支流に入りました。
安蔵川源流域
赤マークから南の支流に入るか、西の支流に入るか悩みます。
鱒を釣るなら「冷たい方の支流を選べ」という言葉を思い出し、両方の支流に手を突っ込んで比較しますが、水温の違いが全くわかりません。適当に南側の支流に入りました。
今日は格好をつけてルアーを楽しんでいる余裕はなく、私も兄もチョウチン毛針釣りです。
白い毛針を浮かべて見ますが、魚の反応がありません。
・・・そういえばブログではいつも「今日は反応がない」という書き出しを使っていることに気が付きます。
その理由は毛針に反応した場面しか記憶に残していないからで、例えばYou Tubeには釣りの時に撮り溜めた短い映像をアップしていますが、基本的には魚が毛針に反応した映像しかありません。(毛針がただ流れていく映像を公開しても仕方ないため)
魚が反応した映像を見すぎたために、毛針を浮かべればすなわちイワナが飛び出す式の脳みそになっていますが、やはりこの朝も魚は反応してくれません。
しかし開始から1時間が経過し、兄が落とした毛針に18センチほどのイワナが食ってきました。
しかし兄は昨日と同様、ほとんどアワセを入れていないのでイワナの口には針が掛からず、魚は身をブルっとしただけで川の底に逃げ込んでしまいました。
「下手くそ」
と思わずつぶやいてしまいました。渓流釣り歴10年になる私が見本を見せてあげましょう。
毛針で水面をただ流すだけでなく、上流に引っ張ってゆっくり流すという手法を使ってみます。
見事に魚が食ってきましたが、ビックリして大きくアワセてしまったせいで糸が切れてしまいました。
撮影していることを一瞬忘れ、舌打ちをして「ああっ!」と叫んでいるあたり、品の無さを露呈してしまっています。
さて、魚が釣れない責任を場所になすりつけて別の支流に入ります。
安蔵川源流域の支流
杉に囲まれたおだやかな河川です。
兄が毛針を流すとイワナが食ってきましたが、今度も針に刺さらなかったようです。
釣れなかったことにショックを受けているのか楽しんでいるのかわかりませんが、兄はカメラにむかって「あちゃー」とやっています。
彼は40に届こうかという年齢ですが精神的には4~5歳くらいで、私以上に喜怒哀楽を全面に押し出す癖があります。
いつだったか一緒にフットサルをしたときのこと。
ゴールを決めてもニコリともしない周囲をよそに、彼は自分が点を取ると大喜び。クリスティアーノ・ロナウドのゴールパフォーマンスをしたり側転をしたり(出来ていなかった)、一人で大はしゃぎして周囲の参加者から好奇の目で見られていました。
この日も魚をバラすと私に「あちゃー」と見せたり、大層に天を仰いだり、全身で子供をやり直しています。
そういえば先日、パラリンピックの知的障害部門の卓球を観る機会がありました。
プロスポーツ選手と言えば喜怒哀楽をコントロールしてプレーする印象でしたが、その選手は点を奪う度にクリスマスの朝の子供のように大喜びし、一方、点を失うとポーカーフェイスを決め込むことなく、この世の終わりのような表情でガクンとうなだれる姿がとても素敵で、兄と釣りをしていると卓球の彼を思い出してしまいました。
とはいえここはスポーツの世界大会ではなく、ただの釣りなのですが。
* * *
この支流に移動してから2時間ほど経過したとき、対岸から兄の奇声が聞こえてきました。どうやら魚を釣り上げたようです。
子供おじさんに釣られたのはオレンジ色の鰭が綺麗なイワナでした。
2日かけてようやく釣れた一匹がことのほか嬉しかったようで、魚を眺めながら大はしゃぎしています。
メディアの影響でしょうか、この国では魚をリリースするとき
「ありがとう」
と言いながら別れるのが定番となっていますが、彼は
「◎✕△$Ⅱ×¥●&%#あ~!!!!」
と言いながらイワナを見送っていました。
* * *
結局この日は私の方は一匹も釣ることが出来ず、2人アワセても2日で2匹という結果になりました。
レンタカーを返却し、特急列車で大阪に向かいます。
電車に乗ってもまだ兄の興奮は覚めず、お土産屋で購入した日本酒を片手に
「良かったな~」
「渓流は良いな~」
「イワナ~」
と、イワナの「ナ」を感嘆詞のように口ずさんでいました。
ちなみに兄は人とのコミュニケーションが極めて苦手で、大学には1年余計に通って5年通学したものの連絡先を交換した人は0人。就職後もすべての会社で順調にいじめられ、35歳を前にして転職回数はすでに8回を数えていた気がします。
障害とは絶対的に存在しているものではなく、社会との相互作用の中で生まれるものなのだそうですが、ではこんな兄やそれとほぼ同じ私が普通に受入れられてしまう社会があるとすれば、それはそれで怖いなと考えながら、いくつものトンネルを抜けて自宅へと向かいました。
【竿】ダイワリバティクラブ 5.3メートル
実売価格は5,000円~8,000円程度です。安いですが全く問題なく使えます。
【ライン】実売400円の安いライン0.8号
【毛針】サイズは14番くらいを使っています
チョウチン毛針釣りの方法と道具についてはこちらでまとめています。
チョウチン毛針釣りは簡単な道具と動作で楽しめるので、ルアー、フライ、テンカラなどで行き詰まった私のような釣り人にもってこいの方法です。