屈斜路湖でヒメマスを釣り上げた翌日は、屈斜路湖の別のポイントでヒメマスとニジマスを狙いました。
宿は昨夜から「鱒や」という屈斜路湖近くのお宿に宿泊しています。非常に良い店主さんですが、一つだけ気になったことがあります。それは、鳥の餌代の寄付の要請が書かれていることです。
貧乏性の私は、うっかり野鳥の撮影をして募金を請求されたらどうしようと心配するあまり、野鳥が飛んできても横目でジロジロと楽しむだけでカメラを取り出すことが出来ませんでした。
今回は弟子屈町の宿泊キャンペーンを利用していたため、宿からチェックアウトの際にアンケートに答える必要がありましたが、その際にオーナーからボソりと
「大人の回答をお願いします」
と口添えがありました。
もちろんこの宿にもキャンペーンにも満足しているので悪いクチコミを書く可能性が無いのですが、わざわざそれを直接言ってしまうかと、少したじろいでしまいました。良いお宿でありご主人ですが、確かに変わってるかもしれません。
アンケートに大人の回答をした我々は、釣りへと出かける・・・予定だったのですがそれを許さない一つの事象が立ちはだかっていました。
私は同行者である中森くんのうんこを待つ必要がありました。彼はお酒を飲んだ翌日は朝2回のうんこ放出を義務付けられた体になっており、美味しい朝食を食べたあと我々は釣りに急ぐことも出来ず、二人膝を突き合わせ、ただ彼のうんこを待ち続けました。
日常で我々は文化や慣習、お金や家族などあらゆることに支配されていますが、まさか楽しみにしていた北海道旅行のスケジュールを同行者の肛門に支配されるとは、なんという人生でしょうか。
「体を冷やした方が出る気がする」と、外に出てタバコを吸っているとようやくもよおしたらしく、結局30分ほどの待機時間で予告通り2度の結果を出した彼を助手席に乗せ、釣り場へと向かいます。
釣り場に到着すると、彼がソワソワしながら湖の中ではなく、陸側を見ています。釣るべき対象は水中にいるのに何を探しているのか、熊でも恐れているのかと思って尋ねると、
「うんこがしたい」
と言い出しました。
なぜ2回に分割払いするのかと私を含めた誰もが思ったはずですが、なんと2回では飽き足らず、3回目を野糞にて敢行しだしました。
彼に野糞をしたことを責めると、例えば落ち葉も土も、川に流されて高地から低地へとエネルギーを運ぶ一方であり、逆に低地から高地へとエネルギーを運ぶのは海から上がってきたサケ・マスくらいしか思いつきません。「だからこそ、このエネルギー循環システムの欠落を補う方策の一つとして野糞を提供しているのだ」という彼のクソみたいな言い訳に妙に納得しつつ、ようやく釣りを開始します。
ヒメマスは昨日入ったポイントに比べると少ないものの、間近どころか真上からも姿を拝むことが出来ます。
※北海道屈斜路湖でのヒメマス釣りポイントや方法は有料記事にて記載しています
今日のヒメマス達は全くルアーに反応してくれないので、すぐに諦めて水中を撮影して楽しみます。
※ヒメマスが泳いでいるだけの映像です。1分5秒からヒメマスが大きく見え、3分30秒のところではエラ洗いをします
中森くんは大きなニジマスを狙うべく、淡々とルアーを投げ続けています。
一方の私は湖などの開けたところでルアーを投げ続けることが苦手なので、ニジマス狙いで遠投し続ける戦士たちを横目にパーマークが有る5センチほどの小魚を追い回して遊びます。
屈斜路湖に生息するトラウトはニジマス、アメマス、ヒメマス、サクラマス、イトウが居るようですが、果たしてどの鱒でしょうか。
小魚に没頭していると、中森くんの隣でルアーを修行僧のように投げ続けていたおじさんのリールのドラグ音が鳴り、ドラゴンのように巨大な魚が2回続けて水面から飛び上がりました。
見たことも無い大迫力のジャンプに歓声をあげる私に向かって、おじさんは振り返って頭をかきながら「てへへ」という顔を向けました。どうやら大きなニジマスを掛けたものの「しばらく魚だとわからなかった」らしく、結局バラしてしまったようです。
私は大きなニジマスという生物がこの世に実在したことを知り、慌てて釣り道具の準備をして彼の再来を待ったものの、私のルアーに振り向いてくれることはありませんでした。
魚を釣ろうとしたり、撮影しようとしたり、はたまた釣ろうとしてみたり。目の前で起きたことにイチイチ反応して失敗を積み上げるのが私の習慣になっています。まだまだ粘り足りなそうな中森くんを説得し、早めの昼食へと逃亡します。
目次(スクロールします)
わこっちカフェでランチ
わこっちカフェはこの日宿泊する屈斜路原野ユースゲストハウスに併設されたレストランです。そばを中心にしたメニューはなかなか美味しく、今日の宿での夕食にも期待が持てます。
食事を終えた後会計をしようとすると、ホールにもキッチンにも人の気配が無く、声をかけてみましたが人が動くような気配すらありません。20歳の頃の私であれば普通に会計もせずに立ち去るところでしたが、あいにくこの日は同じ施設に宿泊することになっているのでそうもいきません。
「すみませえん!」
「すみませええええん!」
「すーみーまーせええええええん!!!!!!」
どんどんボリュームを上げて大声で叫ぶと、6段階目の大声でようやくキッチンの奥の部屋から兄ちゃんが登場しました。
小走りでやってきた彼はまずは申し訳ない顔を作りながら謝罪をするかと思われましたが特にそのようなことは無く、200年前から繰り返されてきた神事のように、粛々と会計が執り行われます。
昭和の大学デビューのような茶髪ファッションをした彼は、これまで一度も何かを思案したり懊悩したりしたことが無い、出来たてのはんぺんのような顔をしています。
はんぺんに、今日の夜は何時までにチェックインすれば良いですかと尋ねると
は「18時半に夕食なのでね、18時までにチェックインしてもらえたらね、こちらとしてはね、助かります。」
とのこと。はんぺん目線ではなく「18時までにお越し頂ければ、スムーズにチェックインしていただけます」とか何とか、お客さん目線での誘導の仕方も可能ではありますが、彼には難しいでしょう。
この店で宿泊するのかと少し憂鬱な気持ちを抱えながら、釣りを再開します。
* * *
再度ヒメマスを釣るために、屈斜路湖へ向かいます。
産卵床をぐるぐる回っているペアのオスを狙ってルアーを投げます。「すでに産卵モードに入っているヒメマスを釣るのは可哀想」と言いますが、それなら少し沖で釣ったところで大差はありません。
という屁理屈で、目の前のヒメマスを執拗に狙います。
オスのヒメマスが釣れました。
カラフトマスのセッパリはあまり好きではないのですが、ヒメマスのそれはとても美しく感じます。
リリースすると、元居たペアのところに静かに戻っていきました。
「逃したヒメマスが、もう一度ルアーに食ってくるかもしれない」
と馬鹿なことを考えてもう一度ルアーを投げてみましたが、ヒメマスは私ほど馬鹿では無いようで見向きもしませんでした。
昨日から未だオスのヒメマスを釣っておらず、さんざん私にからかわれた中森くんもこのあたりでようやくオスのヒメマスを釣り上げました。
水中で泊まるサスペンドミノーが効果的だったようで、続けて5匹ほど釣り上げていました。
オスのヒメマスを釣るという宿題を終わらせた我々は懸案の宿へと向かいます。
* * *
宿は屈斜路原野ユースゲストハウス
昼間にランチで訪れた時に違和感のある対応を見せてくれたはんぺん兄さんがチェックイン時にも現れてくれました。
昼間は別のことで怒っていたので気になりませんでしたが、彼は発言する際、全ての言葉の最後に「ね」を入れるという妙な癖があるようです。
は「今回はですね、国の宿泊クーポンが使えますのでね、こちらの用紙にですね、お名前をね、書いてくださいね。」
彼は中学生の頃に国語で教わった文節の区切り方に挑戦しているのでしょうか?その小馬鹿にしたような話し方に腹が立った私は彼の話し方の真似をして、
私「ここにね!私の名前をね!書けばね!いいのね!」
と言ってチラリと彼の顔を見ますが、彼は嫌味を言われていることに全く気づいていない様子で、ただ平たい顔だけをしていました。中森くんも私の文節チャレンジに気がついているものの、面倒くさい展開になるのを避けたいのか、気付かないフリをしています。
は「全国旅行支援のね、クーポンはですね、北海道で受け取った場合ね、北海道でしか使えませんのでね。例えばこのクーポンをね、大阪でね、あ、お客様のご住所が大阪になっていたので大阪で例えたんですがね、大阪では使えないんですね。」
”大阪で例えたんですが” という全く必要の無い枕詞が、はんぺんがこれまでどのような製造過程を追って単純に生きてきたのかを雄弁に物語っています。
はんぺんが食事会場を説明し、お風呂場の説明をしている途中、風呂場から中年男性のドスの聞いた声がはんぺんに向かって投げかけられました。
客「お湯の使い方教えろ!!!!」
どうやらお客さんは風呂場のお湯の出し方がわからないので先程はんぺんにたずねたものの、はんぺんは我々のチェックイン対応を優先し、中年男性は寒い脱衣場でちんちんをブラブラさせながら待ちくたびれていたということでしょう。
我々の興味ははんぺんではなく、その男性を戸惑わせたお風呂がどんな作りなのかという点に移行し、男性が風呂場を出た後すぐに風呂場に行きましたが、小学生でもわかりそうな直感的なシャワーの作りだったことに驚き、これだから安宿は止められないと感動を覚えるのでした。
安宿好きの私にとっても相当に印象的な宿を予約してしまったようで、夕食のクオリティにも恐怖を覚えていましたが、食事は豪華では無いものの全て安らぎを覚えるような美味しさでした。
中でも白米が非常に美味しく、店員のお姉さんに何と言うお米なのかを聞くと
姉「ななつぼしです。湧水で炊いているので美味しいんだと思います!」
との回答でした。「俺は美味しかったとまでは言ってないぞ!」と思いそうになりましたが、実際は美味しかったので彼女の正解です。オーナーの娘さんらしく、とても良い接客をされていました。はんぺんは彼女を見習おうな。
夕食の後半には映像制作も出来るオーナーさんが作った観光案内の動画が上映されます。映像に合わせてオーナーがしゃべりを入れるという1人コントのスタイルです。
どうせくだらない動画だろうと馬鹿にしていたもののとても良く出来ており、屈斜路湖と摩周湖は7000年前の噴火でできた比較的新しいカルデラの中の湖であることなど非常に勉強になり、途中からは夢中で動画を楽しんでしまうピュアな私でした。