折立登山口から薬師沢小屋を目指した山歩き編に続いて、初日の釣り記録をご覧ください。
* * *
薬師沢小屋を拠点にして近くで釣りをしていた人が小屋に戻ってきました。
「どうでしたか?」
と少しはずんだ声で尋ねると、彼は重い病でも告げられたかのようにうつむいて、無言で首を振っています。
恐らく、このタイミングで釣果の質問だけはされたくなかったのでしょう、釣れなかった原因を地球もしくは我々に見出してるような露骨な不機嫌に、いつもの自分自身を見出しました。
しかしあの憧れの黒部川で何も釣れない、などということがあるのでしょうか?テレビやYouTubeで観た動画では、嫌というほど釣れてたぞ?
釣りの準備をして外に出ると、突然大雨が降り出しました。いわゆるスコールと呼んで差し支えない激しさだったので山小屋で待機しようかな。
「黒部まで行けば、お前でも釣りたいだけ釣れるぞ」
そんな同行者からの誘い文句をそのまま信じたわけではありません。イワナが多いのは疑わないとして、イワナだって何も食べたくないときもあるでしょう。
疑いながら小屋の外をぼんやり眺める私にトドメを刺すかのように私に薬師沢小屋の名物管理人であるけいこさんが、秘密でも打ち明けるような声色でつぶやきました。
「この沢は、釣り人にとっては天国ですよ・・・。」
店主のお墨付きに迷っていた背中を押されてしまい、外に出てみます。すると何らかのバリアが張られているのか、幸いにして私の周辺1メートルだけ雨が降っていない気がするので、問題なく釣りが出来そうです。
想像以上の水量と、やや不自然なくらいの水の青さに驚きます(goproの補正もかかっています)。
こんな絶景で、ルアーの2つの針にイワナが1匹ずつ掛かったらどうしよう・・・なんて心配も杞憂となり、友人のルアーに先にイワナが掛かりました。
中森くんは川でも山でも北海道でも奄美大島でも、必ず私より先に魚を釣り上げるという嫌な性格をついに黒部でも発揮してくれました。
私が投げたルアーにはイワナが追いかけてきてくれますが、なぜか食ってくれません。ルアーを変えたり動かし方を変えたりしますが状況は変わらず、私の顔やこめかみが、イライラ顔面貼り付けおじさんと瓜二つになってきました。
その後も無策でルアーを投げ続けた所、ルアーが落ちた瞬間にたまたま口に入って釣れたイワナが釣れただけで1日目を終了しました。
昨夜から睡眠不足で歩いてきたことを思い出し、ぐっすり昼寝をします。
個室も有りますが、我々が予約した相部屋は雑魚寝部屋です。
人が密集した雰囲気も、山小屋っぽさが出ています。
ぐっすり昼寝をした後に外をのぞいてみると、私のバリアをも無効にするほどの豪雨だったので、引き続き山小屋で待機します。薬師沢小屋にはネットも繋がっていないので、持ち込んだ酒を飲んで時間を潰します。
同行者が空きボトルに詰めてきてくれたラムを飲んでみます。私も酒に詳しいわけではありませんが、ラムはたまに飲むので二人でラムトークを楽しみます。
友「ラムにしては少しスモーキーだね」
私「うん、ラムにしては甘さも控えめですね」
瓶が半分くらいになったところで、この瓶に入っている液体はラムではなくウイスキーだと言うことにどちらともなく気付き、お互いのラム談義を山小屋の人に聞かれていないかそっと心配する我々でした。
時をやり過ごすうちに、ようやく17時の晩ごはんの時間です。山小屋への物資の輸送は基本はヘリで行っています(シーズン中3回)が、悪天候が続いて2回目の輸送が間に合っておらず、非常食ポジションのカレーが並びました。
山小屋の食事でどん兵衛より美味しいものを期待していないので、野菜と鶏肉がしっかり入ったカレーが嬉しくて涙で前が見えなくなったのか、一口目が口に入らず盛大に皿の外にこぼしてしまいました(あるいは高度に順応出来ていなかったか)。
ティッシュが無いのでささっと腕でふいて証拠を隠滅します。
今日はあっさりした釣りで終わってしまいましたが、明日は憧れの黒部で朝から夕方まで釣りが出来るのか・・・。雨上がりで警戒心が薄いでしょうから、イワナが水面の毛針にバンバン飛び出してくれるのでは無いでしょうか。