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【ポイント】有山公民館(富山県魚津市有山)から少し上流域にて
アクセス | 富山市から30分 高岡市から50分 糸魚川市から50分 |
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対象魚 | ヤマメ・イワナ |
入渓のしやすさ | ★★★★★ |
歩きやすさ | ★★★★☆ |
魚の量 | ★☆☆☆☆ |
川を見た瞬間に「騙された」という気分が襲ってきた。魚が居ると聞いてきたが、これはどうも嘘くさい。
まず、川の透明度が高すぎる。「水が綺麗」とは質の異なる「嫌な感じ」のする透明感で、例えるならばジブリ作品の主人公の女のコのようだ。まるで生命感がなく、決してお付き合いしたいタイプではない。深入りすると病気にもなりそうだ。
こんな川、見たことが無い
さらに、流れが早すぎる。平均勾配8.3%という日本でも屈指の急流に更に雪解け水まで加わっているので、水の勢いと轟音からは殺意すら感じる。超巨大なウォータースライダーのようだ。転がっている石は、全て削られて綺麗なたまご型が揃っている。これでは、渓流魚と言えども、辛抱たまらず海までビューンと流されてしまうように思えた。
しかも、ここには漁協が無いので、放流はない。有志による放流がされていると聞くが、いつの情報やらわからない。そういえば、過去の釣果をインターネットで調べてみるも、7年ほど前にヤマメを釣ったブログが見つかった程度だった。
何を好んでこんなところに立っているのだろうか
私は、これら全ての悪い材料を全てポジティブにとらえて「珍しい景観の川で、天然に近い渓魚を釣り、夜は旬のブリに舌鼓」という物語に書き換えていたのだった。何ということだ。しかもブリはこの時期にはもう出回っていなかった。
ああ、なぜこんな寒い時に、大陸風をわざわざ浴びに来たのだろうか。関東とは寒さの質が違った。だが、辛うじて川虫は拾うことができた。少しだけ、希望はあった。
3日間、魚を追い続けた
1日目、二日目と当然のようにボウズが続いた。3日目になっても、アタリどころか、小魚の気配も、釣り人の姿も足跡もない。さらにぼんやりした感覚で歩いていると、石の上を覆ったコケで滑って川にダイブし、体の半分ほどが浸かってしまった。そこからの体感温度は、日本からシベリアにワープ。
しかし、一度脳内に根付いてしまった妄想魚は簡単に消えてくれない。
手はかじかんで、指先まで氷になったようだ。そして砂袋でも背負っているかのように、体は重く、硬くなってきているようだ。それでも、竿を目いっぱい振り込んでは、糸の先に少しでも何かが触ったようならば竿を上げてみて、何もかかっていない針を確認するという作業を続けていた。
突然風向きが変わったような気がした
その時、唇を紫にしてブルブルしている私に神が声をかけてくれた。「根掛かりを恐れずに、深場を攻めるのじゃ」。神ではなく、なんのことはない、数日前にそういう情報をネットで拾ったのを思い出しただけだ。
それまでよりも1メートルほど糸を送り込んで深場に餌を通した。餌を先に流さないといけないはずだが、底の方は流れが弱いので、目印だけがどんどん流れていく。構わず流す。
すると、穂先が、わずかに揺れた。3日も魚を釣っていないと、反応が鈍る。風が強いので「風で揺れているのだろうか、もしくは手の震えか?」と疑いながらも、少し竿を上げると
「ゴン、ゴン」という感触がある
魚を釣りに来たくせに、魚が掛かっていることがどうも信じられない。慌てて竿を上げてみると、ぐん、と重い。どうやら魚が付いているようだ。しかも、大きい。
瞬間的に「ウグイに違いない」と思った。もしバレてしまったときに悲しさのあまり発狂しないよう、自分に言い訳をしようとしたのだ。何という情けない男だろう。
がむしゃらに激流の中から魚を抜き上げた。網に滑り込んで入ったのは透明感あふれる妖艶な魚だった。これが、生まれて初めて釣ったイワナになった。