3日目までの散々な釣果を受けて4日目は朝からの釣りを諦めて宿でゆっくり過ごし、宿主が作る隠岐島のお雑煮をいただきます。隠岐ではお出汁にお餅と海苔をのせて食べるスタイルだそうです。
食べる前から確信していましたが、異常に美味い・・・。各地のお雑煮を食べたことがあるわけではありませんが、このお雑煮に全国統一して頂いても構わないくらいです。
西郷にある小さな博物館であるジオパークを見学した後は布施の堤防で釣りに挑戦します。入れ違いで引き上げていくおばあちゃんに釣果を聞いてみると、ムロアジが大量に釣れたのだとか。
堤防に行くと、先行者の若者が2人立っています。
「正面投げて良いですよ」
とこちらに譲ってくれましたが、少し申し訳なくて横のテトラで釣りをしていたところ、まるで潮が満ちるかのように、彼等がゆずってくれたはずの正面にズレてきました。
「こっち使っても良いですか?」
と聞いてくれれば良いのに、なし崩し的に占領してくるとは、どこかの国の侵略態度に似たものを感じます。もしかして大陸の方から来られましたか?
と質問する代わりに釣果で見せつけてやろうとしますが、全く釣れません。彼等はグレとムロアジで楽しんでおり、悔しい・・・。
こちらは夢とロマンを放棄し、背に腹は代えられず小さなワームを投入。結果、ハゼのような魚が1匹釣れました。
撮影しているのがバレないように体で隠して撮影し、逃げるように堤防から立ち去り、この日はこの一匹だけの釣果で終わりました。
* * *
翌朝も本能に突き動かされて朝5時に目が覚めてしまいますが
「早朝から出かけてまたボウズか」
と思われる恥ずかしさが勝り(というか負けて)積極的に二度寝して失敗を回避しました。しばらくぶりに魚を釣り上げたいと思い、最後の砦である川へ逃げ込み、竿を振ると・・・
ちゃんと釣れました。
甲殻類を餌にしているヤマメほど秋に赤い模様が出ると教わりましたが、本当でしょうか。臀鰭も白くなってカワムツみたいです。
一通りヤマメを楽しんでわずかな自信を取り戻せたので、改めて海へリベンジに向かいます。
今津漁港
今津の堤防の横にある磯でルアーを投げていると、隣に若いカップルがやってきました。
2人で竿を2本ずつ持って来たので2人で並んで釣りをするのかと思ったら、彼女はその場に座り込んでスマホをいじっています。なんと彼氏が釣りをするのを横で見守る係のようで、たまに彼氏の釣り姿をスマホで撮影してます。
「かっこいい・・・」
等と思っているのでしょうか?彼氏よ、なんてモテ男なのだ。俺なんざ川で魚を探す姿がキモすぎて写真を撮られたことしかないぞ。
君のようにファッションで釣りをしている人間にベテランの釣りの技を教えてやろうではないか。
ちょうど彼氏とは横並びでルアーを投げることになったのでジグの飛距離で見せてやろうとすると、私のルアーは彼の着水点に遠く及ばず、はるか手前で水没しています。きっと私の正面で竜巻が発生しており、強い逆風が吹いているのでしょう。
それでは俺の美しいしゃくりを見よ!と意気揚々とジグを動かすと、ロッドとリールを動かす手ががちゃがちゃと衝突しているのに対し、彼は鶴が飛び立つかのように連動した動きを繰り出しています。俺は偏光グラスで黒目の位置を隠しながら彼の動きとリズムを参考にして、結果として二人とも同じ動きをする操り人形のようになってしまいました。
若者の釣り方を真似するおじさんと、背後の彼女をほぼ無視して釣りをする若者、どちらに魚が掛かるのか?!ここは技術ではなく、倫理的に俺でしょう!?
と思って粘り倒しますが、どちらにも全く反応無く終了となりました。しかし釣りを諦めるのが少し遅かった、つまり横で釣られるのが悔しくて先に釣りをやめられなかった・・・私の負けです。
* * *
最終日、宿主から紹介されて久見海岸のとある仕事現場を訪ねてみます。
今回の隠岐の島での海釣りでほとんど何も釣れていないと言うとそれを不憫に思ったようで
「仕方ないから船を出してあげようか?」
と言う願ったり叶ったりの展開に。彼は仕事中にも関わらずそれを投げ出し、さらに弟子の若い男性まで連れ出して3人で沖に出ることになりました。
今の季節なら岸からでも簡単に釣れるし、沖に出て釣れないことは
「絶対に、絶対に無い」
と断言して頂きました。ちょうど夕暮れの良い時間帯で、すごい夕焼けです。
しかし大変わがままで恐縮なのですが・・・船長が魚探で見つけたポイントに入って釣りをするのはあくまで彼の実力だと思いますが、釣れてしまった場合に私の釣果と言って良いのでしょうか?
彼は当初「カヤックを貸してあげるからそれで沖に出ては?」と言ってくれていたのですが、私がぎっくり腰持ちで座り姿勢が心配だと言うと、わざわざ船を出してくれる流れになりました。でも今更ながらカヤックでやってみたかった気もするぞ・・・と心の中で思いつつ、カヤックでは行けない距離の沖に出てみると、小魚が水面を跳ね、鳥たちがそれを追い回す姿を見て目はギンギン、ゲートの前で猛る闘牛のようにアドレナリンは全開です。
ジグを底まで沈めてしゃくりながら上げて釣るのですが、私のジグは船で釣りをするには少々軽かったようで、流れに押されて全く底に届きません。
それを見かねた船長が船を潮の方に移動させることでまっすぐルアーが落ちるように調整してくれています。場所選びだけでなく沈めるところまでサポートしてもらうなんて、私は大名でしょうか。
底についたら10回ほどしゃくりながら巻き、反応が無ければまた沈めて・・・を繰り返します。
「ヨコワ(若いマグロ)、ヒラマサ、カンパチとかがこの下に群れてるはずだよ」
と言う船長の声に励まされてシャクっていると、ついに魚が掛かりました!
しかし「マグロ、ヒラマサ・・・」などという言葉から想像していたような引きではなく、大きめのウグイくらいの感触しかありません。まぁそれでも魚の顔くらい見てやるかと巻いてみると、すぐにバレてしまいました。
船長から「大丈夫、まだチャンスはあるよ!」
と声を掛けて頂き、周囲を大量の生命感に包まれるという釣り番組でもあまり見ないような大興奮の環境を作っていただきましたが、結局何も釣り上げることが出来ませんでした。
・・・。
この環境の夕マズメで完全なボウズを叩き出すなどあり得ないと言われた状況でボウズを叩き出し、さらに仕事を切り上げさせられて同席してくれた方にまでボウズを食らわせるとは、私は呪われているのでしょうか?
宿に戻って一人でうつむいていると、若いカップルが話しかけてきました。彼らは小笠原諸島で出会い、一緒に仕事をしながら旅をしているという漫画のようにキラキラした若人で、仕事は忙しいながらも充実し
「いつか僕らが出会った島で、料理屋をやりながら地元のブランド品を作り上げたいんです」
と、キラキラした目で話してくれました。うまく魚が釣れず、それを宿主に指摘されるのが嫌で一人じめじめと酒を飲んでいるおじさんとの落差は計り知れません。
海で全く釣れていないと愚痴をこぼしたところ、彼らも趣味というほどでは無いけれど隠岐島で釣りをしてみて「簡単に釣れましたよ」とのこと。私は自分の釣果を茶化すしかなく、冗談で
「この島の周辺から魚は消えたんじゃないの?」
と言ってみた所、
「いえ、昨日もカンパチとシイラが上がってましたよ?」
と冷静に反証を示されました。
さらに私は小さくなり、部屋の隅でゴミと同化して隠岐の島の最後の夜をやり過ごしました。















