白石川流域で1匹ずつだけ釣り上げた我々はこの日、地元の方から教えてもらった川に入ります。
「大きな魚が居るぞ」
と言われて行ってみましたが、釣れるどころか魚の姿すら見えません。そう言えばこれまでも、現地の方から教えて頂いたポイントに行って、その方の言う通りの環境であった試しがありません。だいたいにおいて、彼らはそのポイントでの平均値ではなく、過去最高の体験を我々に語り、そして我々は彼の過去最高を平均値として認識してしまいます。その毎回出現するギャップを私自身が学習出来ていないだけですが、ひとまず責任を他人になすりつけます。
「あいつ、騙しやがったな」
「仙台の人間というのは、案外信用できませんね」
と散々悪口を言っていると、周囲より深さがあるポイントで大きな魚の姿が見えました。
仙台の人よ、悪かった。これだけ魚が溜まっているのであれば、釣れない道理はありません。
まずはルアーを流してみますが、反応がありません。
続いて毛針に変えてみますが、やはりこちらも見向きもしません。
これは、決して釣れない魚なのだな。怪しいものは決して口に入れないという理念を共有するニジマスの集団なのだなと納得していると、隣の中年男性が竿をしならせています。
ダメだ、釣られてはいけない!!
突然こちらにダッシュしたり、木の枝にぐるぐる回ったりせよ!と願いを込めましたが、あっけなくネットに収まってしまいました。
鳥にやられたのか、鋭い傷跡を持ったニジマスでした。
結局私は小さなイワナのような魚を釣り逃しただけで釣り場を移動することになりました。
釣り場は地元の方に教えて頂いたポイントのため無料記事では記載せず、有料記事でご紹介しています。
* * *
昼からは同じく地元の方に聞いた、別の河川へと移動します。
魚の反応は見られるものの釣り上げることが出来ない状態で大きな流れ込みに入ると、魚が積極的に水面の虫を食っているのが見えました。
稀に見る活性の高さで、水中カメラで撮影しながら釣ることにしました。
44秒のところで一度毛針を食い損ないましたが、二度目で掛かりました。
普通、この距離で私の人影があるとイワナは警戒して隠れるか、隠れないにしても毛針には食ってこないことが多いですが、やはり東北方面の渓魚は全体的に警戒心が薄いのでしょうか。
もちろん釣り人のプレッシャーにはさらされているはずですが、それ以上に餌を取り合うライバルとなり得る渓魚の数が多いので、
「警戒ばかりしている場合じゃない」
ということなのでしょうか。結局同じポイントで4匹ほど釣り上げることが出来ました。
イワナの筒のような丸さが堪りません。
現在の風潮として、渓流釣り人の有るべき姿の主流は
- 釣っても持ち帰って食べない
- 傷つけずにリリースする
になっています。自然保護(?)を旗印に地位と研究費を確保している生物学研究者のポジショントークに、キャッチアンドリリースの欧米文化にかぶれたギブミーチョコレート民族が乗っかる形でこの世論は形成されていると考えていますが(偏見です)、私は「釣った魚は釣った人が自由に扱えば良い」派に属しています。
もちろんむやみに傷つけたいとは思いませんが、比較的体格の良いものはしっかり触れて、イワナの素晴らしさを堪能させて頂きました。
* * *
すると先に釣り進んでいた中森くんから
「デカいニジマスがライズしとる」
というメッセージが入っていました。追いついてみると、40〜60センチと思われるニジマスが10匹ほど蠢いているのが見えました。
モンカゲロウがヤゴの状態から羽化して飛び立つ瞬間を狙ってニジマスが集まってきているようでした。
口が無いのか、カゲロウの成虫・・・。飛行も不器用なので、あらゆる生物の餌になっています。
活性が上がっているであろうニジマスにルアーを流したり、毛針を見せたりします。すると時々見には来てくれますが本物のカゲロウとは違いが歴然としているのか、口には入れてくれません。
であれば実際に餌にしているカゲロウを針にかけてみてはどうでしょうか?
「あえて本物の餌では無い、疑似餌で釣る」ことをバイブルの第一章に据えるフライフィッシング教を冒涜するような、節操のない、無限自給自足可能型の釣りが完成しました。
餌を浮かべればすぐに食いついてくるかと思いましたが、案外ニジマスは慎重にそれを見極めようとしていることがわかります。少し震わせたり跳ねさせたりするとニジマスは余計に興味をなくすように、私の針から去っていきます。
試しに動かさずに放置してみたところ、突然ニジマスが勢いをつけて私のカゲロウに突進して口の中に吸い込んでしまいました。見事針に掛かりましたが、強く引っ張られた時に針から外れてしまいました。
・・・。
あまりの勢いにびっくりしてしまい、アワセが早くなってしまったようです。次は、ニジマスが食いついたらあえて一呼吸置いて、アワセようと誓います。
カゲロウを新しいものに付け替えて浮かせると、またも大きなニジマスが食いついて来ました。すると、物心付いた頃から何度と無く破られ続けてきた「マイ一生の誓い」をなぞるように、先程誓ったばかりの一呼吸を綺麗に忘れ、ニジマスの姿が見えたその瞬間に全力をもってアワセを入れています。
随分ジタバタしてしまいましたが、何とか釣り上げることが出来ました。
釣り方は確かにブサイクであり、釣果として数えることを許さないタイプの方もおられると思いますが、今までもブサイクな生き方を貫いてきた私は、これで良いのです。
山形の焼肉屋にて
楽しかった釣りの後は山形市内に有る、とある焼肉屋に入りました。「とある」と店の名前を伏せるときには、これからその焼肉屋の悪口を書くと相場が決まっています。
テーブルに着くと、若い金髪の男性の店員が注文を聞きに来ました。
店員「お飲み物はいかがいたしましょうか?」
私「生ビール2つください。あと、肉の盛り合わせをお願いします。」
店員「かしこまりました」
飲み物を待っている間、我々は今日の釣りについて話し合います。やはり中森くんは岩手県での爆釣が忘れられないらしく、仙台山形はダメなのかなとまた文句を言いだしています。注文から3分ほど経ったでしょうか、店員さんがやってきました。
店員「お飲み物のご注文はいかがでしょうか?」
我々は店員さんの顔を見上げましたが、確かに先程、我々が注文をした金髪の男性と同一人物で間違いありません。
私「先程ビールを注文しましたが・・・」
店員「かしこまりました」
何をかしこまっているのかわかりませんが、ひとまず通じたということでしょう。「お飲み物の注文を忘れてしまいました」ではなく「飲みものの注文は何ですか」と質問してしまっているところに、彼の深い知性が伺えます。
その後、幸いにも金髪の彼とは別のスタッフさんが対応してくれたのでつつがなく食事を進めることが出来、最後に締めのメニューを注文します。すると真打ち登場とばかりに金髪先生が現れました。
金「ご注文をおうかがいします」
私「冷麺1つと、温かいお茶をください」
金「温かいお茶と、冷麺2つで良かったでしょうか?」
焼肉を一通り食べた後で冷麺を一人一皿食べられるのは3年B組の生徒だけで、こちらはもうそんなには食べられない年齢なのです。冷麺は一つに勘弁して頂くよう伝えると、彼は妙なことを質問してきました。
金「麦茶と緑茶がありますが、どちらにいたしましょうか?」
食後の温かいお茶にパターンが用意されているようなお上品なお店ではありません。もしかして食後のお茶で費用を請求されるパターンでは無いかとお茶が有料か確認したところ、無料であるとのこと。
私「そうですか。では温かい緑茶をお願いします」
その後無事に冷麺が一つだけ到着したことに油断していると、お茶がやってきました。
温かい緑茶を注文したはずですが、湯呑はひんやりと冷たく、そして緑茶と言うには変わった色をしており、味は烏龍茶のようです。
店員さんに取り替えてもらうように言おうかと思いましたが彼のモノボケにいつまでも付き合っていられず、黙ってお茶をすすって会計をします。
「これでお茶が有料やったら笑えるな」
中森くんがテーブルに置かれた伝票に目を通すと、その両目が大きく見開きました。なんと
”ソフトドリンク 2個 700円”
と、しっかり加算されていました。
「・・・。」
店長と思われる方に本件を伝えたところ、お茶の費用は無料になりましたが、一人の店員さんにここまで悩ませられたのは人生でも初めてかもしれません。
さらに気になって帰宅後にメニューを見返したところ、お茶のラインナップは「緑茶とウーロン茶」であって、彼が提案してくれた麦茶は瞬時の創作メニューだったようです。
すっかり疲弊した我々は二軒目にくりだす元気もなく床につき、翌日は最上川水系の朝日川で釣りをしました。