昨年たまたま釣り上げたイトウの味が忘れられず、道東にやってきました。
たまたま通りがかった川を覗き込んでみると、水が流れています。
尾幌川にイトウが居るのかどうかは知りませんが、水があるということはイトウが居る可能性もあるということでしょう。
尾幌川ホマカイ川
北海道の釣りターゲットとしてはニジマスやサクラマスも素晴らしい魚ですが、今日はイトウだけを追いかけて見たいと思います。前回イトウを釣り上げたときにはルアーをかなりゆっくり動かして釣れたので、今回もその釣り方を踏襲していきます。
スプーンをゆっくり動かしてみると、小さなアタリとともにイワナが釣れてきました。
あくまでイトウを狙っているため、普段なら大はしゃぎするイワナが釣れても慌てることも無く取り込めました。今日の私にとってはイワナも外道です。
さらにゆっくりルアーを動かしていると、先程より大きなイワナが釣れました。
嬉しい・・・。
いや、喜んでいる場合ではありません。私はイトウだけを狙っているのです。やせ我慢でもそう言い聞かせることで巡ってくる運もあるものと期待しております。
今日はイトウを狙ってやや硬いロッド(ライト)を使っているので、魚が食ってきても弾いている感触があります。少し食い込ませられるように竿を軽く握ってみることにします。
竿を軽く握りながら底付近でスプーンを動かしていると、ぐんと重くなる感触がありました。ブルブルとした引きはありませんが、大物とはこういう引き方をするような気もします。
貝・・・。
どうすればルアーで貝が釣れるのかわかりませんが、ソフトタッチでグリップを握っていたことが奏功したのか、しっかりフッキングしています。
小さな魚を楽しく釣りながら、ある一点の不安が大きく頭を悩ませます。
クマです。
2021年以降、市街地でのクマの被害が増えているようで、北海道に釣りに行くと言うと方々から「クマに気をつけて」。と言われます。クマはもちろん怖いですが、それほど頻繁に遭遇するようなものでも無いので、むしろ遭難とか水没の方が怖いと私は思っています。
それでも、これだけ多数の人からクマクマクマと唱えられ、さらに街で人が背後からクマに襲われる映像を見てしまうと、忘れたくても忘れられないものです。熊鈴を付けるのはもちろん、時々大きな声で叫んでみますが
「むしろ獲物の声と認識してクマが近づいてきたら・・・」
などと考えてしまいます。
ちなみにクマは甘い匂いに近寄ってくると言われており、北海道の釣り人はシーズン中は柔軟剤などは使わないと聞いており、私もそれを真似して柔軟剤を使わないようになりました。しかしどういうわけか、私の服からフローラルな匂いが漂ってきます。
そうだ。よく思い出してみると、朝出かける時に香水を腕にワンプッシュしてしまったのだ。良い年をして、空港で素敵な出会いがあるとでも思ったのでしょうか。森での素敵な出会いにつながっては元も子もありません。
* * *
ビクビクしながらスプーンを投げると、イワナとは違う魚が釣れました。
ニジマスです。
大きな魚でも無いのに、大慌てしている自分が可愛らしいですぅ~。
30センチに満たないニジマスですが、泣き尺ニジマスと言い換えてみることも可能です。
ニジマスをリリースして車に戻ろうとすると、
「ヒィ~、ヒィ~!」
と遠くで何かが泣く声が聞こえてきます。猿でしょうか?
そう言えばクマはどのように泣くんだっけ?ヒントを探すために童謡を口ずさみます。
♪ある日 森の中 クマさんに 出会った
・・・
・・・
出て来ない!フルコーラスで歌ってみたものの、クマの鳴き声に関するヒントを一切与えてくれませんでした。童謡ついでに「赤い靴」を口ずさんでみます。
♪赤い靴 はいてた 女の子
(中略)
赤い靴 見るたび 考える
異人さん 見るたび 考える
「考える」を繰り返して締めくくられており、主人公は赤い靴にも異人さんにも強いトラウマを残したことを思わせます。これが童謡として作られてこれまで歌い継がれているとは、ただごとではありません。
赤い靴で悪いイメージを埋め込まれ、余計に怖くなってきました。
その時、何かが遠くからこちらを見ているような気がします。
シカか・・・。
うっかり匂いを付けてきてしまった私ですが、クマと戦うために今年から追加した武器があります。
それはノコギリです。
北海道は藪こぎがハードなので草を刈るつもりで持ってきたのですが、クマとの戦闘にも役に立つでしょう。いざという時のためにリュックを背負ったまま取り出せる位置にノコギリを忍ばせているので安心でしょう。
いや、ちょっと混て。刀や槍がワンタッチで相手を攻撃出来るのに対し、のこぎりは押したり引いたりして攻撃するので少なくともツータッチ以上、しかも連続して刀と対象を接しておく必要があります。
木の枝を切るときには枝はじっとしてくれていますが、クマは枝のように、切られるままに腕を置いておいてくれるでしょうか?また、もし片腕を置いておいてくれるのだとして、余った片腕で目やにでもほじっていてくれるのでしょうか。そうは思えません。
武器としてもほとんど使えるものは無いと自覚してしまった私は大急ぎで川を去りました。
結局初日はイトウを釣り上げることは出来ず、この日宿泊する別海町の「みつばちの宿」へ向かいます。
みつばちの宿
別海町にある中華屋を併設した「みつばちの宿」という民宿はオーナーが釣り人のようで、私がイトウを狙っていると伝えると中華料理屋のテーブルに案内してくれました。
オーナー自身が釣り上げた1メートルをはるかに越えるイトウの剥製がありました。磯竿とどじょうで釣り上げたそうです。連れたのは風蓮川だそうで、やはり他の河川と比較するとイトウの魚影は濃いという話でした。
ところでこのみつばちの宿は設備が異常に古く
「ここは昭和40年代の一般家庭です」
と案内されればそのまま信じられそうなくらいにオールドな家電が揃っていました。
まずは洗濯機です。
右側に大きなスペースがありますが、何に使うのでしょうか。70代の母親に聞いても使い道がわからないとのことでした。
続いて鉄製のドライヤーです。
戦時中に使われた武器にしか見えません。
恐らく40年以上は現役で使われているのでは無いでしょうか。ボタンが2つありましたが、どちらも同じような温風が出てきました。
吸気口は小粋な柄になっており、皆様と同じく私もひと目で「欲しい」と思いました。
みつばちの宿で休んだ私は翌日、風蓮川でイトウを狙いました。