黒部川で初めてイワナをポッパーで釣り上げた翌日も、無限ループに入った映画のように前日と同じ大雨の音で叩き起こされました。湿気た小屋でやることも無いので竿を持って外に出ます。
黒部ではルアーよりも毛針の方が釣りやすいと言われるそうですが、確かにルアーを投げている私と、テンカラを投げている同行者で釣果の差は開くばかりでした(技術の差には触れない)。
それでも、「ルアーを細かく動かすと釣れる」というアドバイス通り、連続してアクションを入れているとイワナが掛かりました。
ここからはまた普段出来ない釣り方をしようと、手元まで寄ってきたルアーを竿の動きだけで釣る、通称「8の字」戦法を試してみます。
黒部のイワナはルアーを追いかけて近づいて来るものの、興奮して食うということが非常に少ないようです。しかしたまたま二匹が競合した瞬間に限って興奮してアタックしてきてくれる傾向がありました(海で青物を釣る時によくあることだそうです)。
ただし私を争って二人に喧嘩をさせる状況を意図して作り出せるほどの達人であろうはずもなく、まんぜんと川にルアーを投げ続けると、偶然二匹がルアーを争う状態が発生しました。
ルアーが手元に来ても未だ興奮し続けているようだったので、ルアーを最後まで巻き取った上で竿先を8の字に動かしたり止めたりすると、イワナがルアーに掛かりました。
やった、俺も達人だ!
と思ったのも束の間、ラインが出ていないためいつも以上にクッションが無く、すぐに針から外れてしまいました。
・・・。
掛かったらすぐに陸に投げるくらいの準備が必要だったようです。
* * *
昼からはポイントを移動し、薬師沢に入ります。
見た目より水の勢いが強く川を渡れずにバタバタしていると、先に対岸に渡っていた同行者が手を引っ張って助けてくれました。彼が手を差し伸べてくれている間「お前のカバン、臭くて蛾が群がってるぞ!」なんて頭によぎったことも無いかのような、経験なクリスチャンの少年のごとく神妙な顔つきで救助されました。
その後特段釣果は無く、ただ怖い想いをして川を渡っただけとなり、この日の釣りを終了しました。
* * *
最終日は薬師沢小屋の周辺ではなく、折立駐車場に移動しながら、途中にある小河川で釣りをすることにしました。
また6時間の山歩きが始まってしまいます。気合を入れて歩き出した途端に腸の動きが活発になったのか、屁の予感がしたので通行の許可を出した所、屁とは異なる固体か液体かも定かではない物体が混じっていたようで、尻に後ろめたさのような感触があります。
すぐにパンツの中を確認して失態が同行者にバレてしまうと、未来永劫
「うんこマン」
などと呼ばれかねません。それは私の高いプライドが許さないので、凛とした表情のまま歩き続けると、川に到着しました。
太郎平小屋近くの河川
同行者とは別のポイントで釣りをするという口実で木陰に隠れて肛門を拭いてみたところ、液体化したうんこがわずかに混じっていました。もしこのうん汁がパンツを通り越してスパッツとハーフパンツまで浸透してしまったすると、それらの替えが無いため、私はレインウェアと登山シューズにパンツ一丁というニュースタイルで山を歩かないといけません。
しかし、詳細に確認したところ尻肉の防波堤は決壊せず、パンツやズボン類は完全に死守されていました。
絶景の中で小さくガッツポーズを繰り出した私はそう言えば昨日が誕生日だったようで、また精神年齢から一つ距離が出来てしまいました。
* * *
小さな橋の上から川をのぞき込んでみると、水深10センチくらいのポイントでイワナが休んでいます。
人から見下されている状態で休んでいるイワナの姿を見たのは初めてです。このエリアには空中からイワナを狙う天敵が居ないのでしょうか?
川の中にも魚が大量に居るようで、毛針を落とすと同じところで魚が何度でも飛び出してきます。試しに水中にカメラを入れると想像以上に濃密にイワナが群れていました。
透明度が高いわりに魚の警戒心もう緩そうなので、イワナが毛針を食う瞬間が見られるのではと思い、黒い毛針をカメラで追いかけてみました。
映像ではイワナが水面など全く意識していないように見えますが、ちゃんと毛針が見えているのですね。毛針に飛びかかる勢いが強すぎて、水面から体が半分飛び出してしまっています。
* * *
釣り道具を片付け、折立駐車場を目指します。行きよりも登りの時間が少ないのでいくぶん楽な気もしますが、日中に歩いているので暑さが堪えます。また私は下り坂の方が苦手なので、太ももと尻がパンパンで膝も震えています。
山から降りたら最初に何を食べたいかという、山も聞き飽きたであろうトークテーマもイマイチ盛り上がらず、くたくたで駐車場に到着しました。
ようやく山歩きが終わったことが嬉しく、記念撮影します。
山を降りる間「暑い・・・暑い・・・」と繰り返していた同行者が右側で変顔をキメていますが、彼はこの時コロナ感染していたことがその数日後に判明します。
思い出深い旅になりました。