長い長い禁漁期間を経て、ついに半年ぶりの渓流釣りです。
この半年間は何の楽しみもなく、息を吸っては吐いて、ご飯を食べてはうんこをするだけの日々でした。
渓流釣りができる。生きている。あぁ幸せだ!
川に向かう途中の車内で中島みゆきを聴きながら、ふと幸せを感じて泣きそうになりながら、川へと向かいます。
車で2時間かけて滋賀県北部の河川に到着しました。山の空気の冷たさが骨にまで響いてきますが、それでも釣り解禁の興奮を損なうことはありません。感動の嵐の中でまずは足回りから準備します。
しかし荷物を漁ってみても、釣り用のシューズがありません。
竿だって2本用意したし、予備の釣り針だってたくさん持ってきた。あんなに大事で目立つ荷物である靴を忘れるわけがありません。
もう一度あちこち探すも、ない!
・・・。
ここは市街地から遠く離れた山の中です。自宅まで取りに帰れば往復で4時間、釣具屋に行っても往復で1時間はかかるでしょう。
ロングドライブが苦手な私が追加で1時間移動するのは大きな苦痛です。
ここで機転を利かせ(?)た私は、山の近くにある当日の宿泊先であるゲストハウスに連絡を入れました。ここなら往復で20分程度だし、ウェーダーをレンタルしてくれるなら有料でも新しく買うよりは経済的です。
早速、宿に電話を入れてみます。この宿は一度しか利用したことはありませんがウェーダーレンタルへの布石を打つべく「以前はあんなことがありましたね」などと白々しく常連を気取って話しかけてみます。そして頃合いを見て
「つかぬことをお伺いしますが・・・。ウェーダーを貸して頂けないでしょうか」
絶妙のタイミングで打診してみましたが、
「え、なにそれ?」
とのことで、残念ながら宿にウェーダーはありませんでした。
田舎ならみんな持っているわけでは無いんですね。常連を装った布石は無意味でした。
結局近くの釣具屋まで往復で1時間かけて引き返すことになりました。
* * *
到着した釣具屋はコンビニサイズですが、事前に電話で聞いたところウェーダーの在庫はあるとのことでした。
店に入ると、金髪の男性店員がぽつねんと立っています。
田舎のおじちゃんで金髪と言うと「どこ釣りに行くんや!」と声をかけて来そうな威勢の良い居酒屋店長風を想像されるかと思いますが、このおじさんは覇気が無いタイプの金髪で目に力無く、
(子供の頃から今まで何一つ良いことが無かった・・・)
と言う顔をした幸薄タイプです。
もともと人相が悪くきれいな格好をしているとは言い難い私ですが、この店員の汚さと覇気の無さは尋常ではなく、彼からすれば私がキラキラした都会風の若者に見えたかもしれません。
私からすれば、このレベルの器量の人間から得るものが一切無いことは自明で、余計なことは話さないようにしようと心に決めてウェーダーの場所だけを訪ねます。
すると、幸薄の男性は店の隅っこで箱に収まったウェーダーがいくつか並ぶ場所まで私を案内してくれました。ウェーダーのサイズは26か27センチしか用意がなく、私の靴のサイズは26.5なのでどちらかを買うことになりそうです。
私が試着しても良いですかと聞くと、
「箱からは出さないでくださいね。」
とのこと。
「???」
これまでウェーダーや靴を何度も購入してきた人生ですが、試着禁止を告げられたのは初めてです。
「ウェーダーを、試着せずに買うということですか?」と確認すると、
「サイズは、書いてあるとおりですので。」
と、まさに見た目通りに知性のかけらもない返答が返ってきました。まぁ釣りに行くのに釣りシューズを忘れる私に言われたくは無いでしょうが。
ちなみにアマゾンなら購入から30日以内であればサイズ変更も返品も無料です。田舎の釣具屋よりアメリカのインターネット企業の方が親切な時代になったのですね。
仕方なく大きめの27のウェーダーに決めて、レジに行きます。
クレジットカードを提示すると、
「クレジットカードの利用には10%の手数料がかかります」と忠告を受けます。
クレジットカードの利用で客側から手数料を取ることはカード会社の規約違反に当たるはず・・・。それを言ってひと悶着を起こそうかと彼の顔を見たところ、相変わらずスターリンによる恐怖政治下のソ連の雨雲のような濁った目をしています。
生まれてこれまで、何かを思考することを全面的に拒否してきた男と会話しても無駄であることを悟った賢明な私は黙って現金で購入し、急いで現場へと車を走らせました。
滋賀県北部の川へ
フェルト底のウェーダーを購入したつもりでしたが、確認不足でゴム底のウェーダーを購入していたようです。
構わずそれに足を入れて釣りを開始します。
しかし釣りを半年もやっていないと、あらゆることがわからなくなっていることに気が付きます。どうやって歩いて、どうやって投げるんだっけ?
投げることが出来ないので、上から糸を垂らすようなやり方で水中を探ります。
しかし久々の釣りのせいで、ミスが多い釣り人生の中でもさらにこの日はミスが多く、針を岩に引っ掛け、それを外したと思ったら頭上の木に引っ掛ける。それを外そうとして糸が絡んだり、糸が切れて結び直したり・・・。
そんなことを何度か繰り返しているうちに、ついに魚が掛かりました。
いつものアブラハヤかと思いましたが、なんとヤマメです。
漁協が無い河川ですが、ヤマメが生息していたなんて!(写真をよく見ると針が口の外から掛かっていますが、どういう現象なのでしょう)
今年最初のヤマメに対する感動は極めて大きく、釣れた瞬間はひと目もはばからず「ひゃあ〜〜〜〜」と叫んでしまいました。
さて、写真の魚の口の左上にブドウ虫らしきものが見えますが、これはブドウ虫です。
3年ほど前から毛針での釣りにハマり、「今年は毛針にヤマメが食いつく瞬間の動画を徹底的に撮るぞ!」と意気込んでいたはずですが、信念一発目から当初の目標を断念し、というか挑戦もせずに餌釣りに逃げこんだのでした。
さぁ二匹目のヤマメを狙おうと鼻息荒く川沿いを歩いていると、太い棘のある枝に衣服をわしづかみにされます。
痛かった。
渓流ではよくあることですが、棘にやられると衣服やウェーダーに傷をつけたり怪我をするので気をつけないといけません。そう思って写真に収めたにも関わらず、またその3分後に同じ棘に突っ込んでしまう私なのでした。
忘れてた・・・。
気を取り直して続けて竿を出すと、先程より少し大きなヤマメが釣れました。
あぁ美しい。クリクリとしたお目々。釣具屋の店員の濁った目とはその輝きが違います。
上流へと移動する途中、かつての観光施設の前を通ります。
スキー道具のレンタルや軽食を提供していた施設のようです。
このように朽ちた施設の場合、ロープで囲われて「立入禁止」となっていることがほとんどですが、ここは入り放題です。
人口が減ったこの国では、老朽化して顧みられることがなくなった郊外の施設がみるみる増えているように思います。
私のような廃墟好きにはもってこいの時代が来ていると言えるでしょう。良い時代に生まれました。
* * *
先程のポイントよりも上流部に移動しました。
ブドウムシを入れると、イワナが釣れました。
釣れたイワナを撮影していると、土のそばでミミズがうごめくのを発見しました。貧乏性のわたくし、ブドウムシを使うのがもったいないという理由からミミズを引っ張り出し、針に刺します。
ミミズは雨上がりの方が良いと言われますが、そういうことは関係ありません。まずは出費を抑えることが先決です。
ミミズを流すと、今度はヤマメが釣れました。
パーマークがやたら丸いヤマメは天然物の可能性が高いと言われるようですが、私は節操なしなので綺麗なヤマメであれば何でも喜びます。
* * *
これで1日目の釣りは終了です。私のことなので大きな魚は釣れませんでしたが、大満足です。
このようにブログだけ読んでみると、非常にテンポ良く、ヤマメとイワナをポンポン釣っているようにも見えるでしょうか?
しかし実際には、魚の口に針を掛けた3倍くらいは岩やら枝やら自分自身に針を引っ掛け、イライラして大自然に八つ当たりし、半べそになっている時間帯もかなり長かった気がします。
渓流釣りで「楽しい時間」と「辛い時間」を比べれば辛い時間の方が圧倒的に長い気がしますが、それでも渓流に足を運ぶ理由は何なのでしょうか。
私と釣りを結ぶか線は一見か弱く見えて、実はがっしりと架かっているようにも思います。