2018年の台風で高槻市の山間部には大きな被害があったようで、高槻中心市から6号線で北上すると、木がなぎ倒された光景が目に入ってきます。
崩れがひどいエリアを撮影したわけではなく、この光景が延々と続いている状態です。2018年の台風被害がほとんどそのまま、もしくは悪化している状態のようです。
災害の範囲が広すぎるため、少なくともこの先数年はこの状況が続くのでは無いでしょうか。
出灰に入る細道に差し掛かると、このような看板が出てきました。
通行止めなのかそうでないのか曖昧な書き方だったので、気にせず進みます(後で確認したところ、通行可能)。
出灰二ノ瀬あたり
この地点より上流はがけ崩れの影響で物理的に通行不可だったので、この地点に駐車します。
雨がほとんど降っていない8月後半でしたが、水はしっかりと流れています。魚が釣れるかなと、車から降りて川を覗き込んでいたところ、お爺さんに声をかけられます。
爺「あの車、兄ちゃんのか?」
現地に住んでいる様子の爺さんは、路肩に駐車している私の車を指差しています。
私「はい、そうです」
彼は第一声から機嫌が悪く、こちらを睨みつけているようです。
爺「車どけてくれへんかな、あそこで作業すんねん」
私「わかりました、少しズラしますね」
爺「少しズラすていうか・・・なんでこんなとこ来とんねん?」
私「魚の生息調査です。」
「釣り」というと遊び風情が漂うので、公の匂いをまとわせるために「調査」という言葉を使います。
爺「調査やなんや知らんけど、なんでここまで入って来とんねん?通行止めの看板出てたん気づかんかったか!」
当初、注意と車の移動の依頼だった要件は徐々に様変わりし、八つ当たりの様相を呈してきました。
彼はヤクザ風の爺さんというよりは、公務員勤めか大企業勤務が長いため偉そうな態度が退職後も骨身に染みている人種に見えます。
ちなみにその後、警察と市に確認したところ、「通行止めではなく協力依頼」だったのですが、この時点では通行可能と知らなかったので、こちらも強く出られません。
私「曖昧な注意書きだったので、入ってきちゃいました」
爺「なんじゃそれ。見てみろ、全部木が倒れてるやろ?ワシここでこれから作業すんねん、お前邪魔やねん!」
彼の眼差しは真剣そのものです。
退職した後、家に居場所もなく年中不機嫌な老人は、「被災」というツールを手に入れて生き返り、今や地球の未来を一身に背負っているかのような面持ちで黒く濁った瞳を私に向けています。
私「ずいぶん、機嫌悪いですね(笑)」
鼻で笑うような私の物言いに爺さんは眼を大きく見開き、目は釣り上がっています。
爺「ワシはな、被災しとんねやぞ!!!!!ワシの車もぺしゃんこになったんや!!!!台風が来てから2年も経つのに道路はいつまでも復旧せんし、ワシは大変なんや!!!!!!!お前にわかるんか!!!!!!!!」
私「被災することが、そんなに偉いんですか?!」
爺「偉いとか偉ないちゃう!ワシは疲れとるんや!!!!!」
私「疲れてる?!ぼ、僕だってまぁまぁ疲れてますよ!!!」
爺「も、もうええ!!!行け!!!!!」
書いていて気が付きましたが、私も爺さんの口調にイライラしており、大人げない対応をしています。
最後は爺さんも涙目になってきたので、立ち去ることにしました。
振り返ってみれば爺さんも爺さんなら、私も私です。
醜い老人と醜いニートによる口論は、汚れた服を泥水で洗うような、泥水かけ論になっておりました。
* * *
大通りに出た後、さらに上流側に回り込んで川に入ります。
細い流れに毛針を落とすと、魚が食ってきました。
魚は、ピチピチした軽やかな動きをしています。
ヤマメでしょうか、カワムツでしょうか?
私が行くところに必ず現れる、カワムツです。
気を取り直して毛針を浮かべても、釣れてくるのはカワムツばかりです。
それでも、暇つぶしに釣れたカワムツを撮影しようと、カバンからごそごそとカメラを取り出そうとすると、手元で「パキッ」という音がしました。
竿先を折ったのは今年に入って4回目くらいでしょうか・・・。
最高気温37度の暑さ、被災という強みを手に入れた爺さんの純な眼差し、折れた釣り竿・・・。
そのほとんどが自分で招いた不幸であることには目を伏せ、イライラしながら釣りを再会すると、
「ドボ~~ン!」
足元を滑らせて川にド派手にダイブしてしまいました。
左腕を強かに打ち付けた上に、首から下げていたカメラも半水没になってしまいました(幸い故障していませんでした)。
このあたりで釣りを終了し、半べそでレンタカーを返却に向かいます。
* * *
レンタカー屋に到着しても私はカリカリしており、手続きだけしてすぐに立ち去ろうとしましたが、レンタカー屋の店主さんが声をかけてきました。
ご主人「お兄さん、お土産、持って帰ってきましたね。」
彼が指差す方向を見ると、車の上に5センチほどのバッタが一匹、乗っていました。途中、田園地帯を通ったときに車に飛び乗ってきたのでしょうか。
私「はは、本当ですね」
車にひょっこり乗っかったバッタを示されて、カリカリし続ける道理はありません。
ご主人「おやおや、好かれていますね。」
バッタは車の上からひとっ飛びし、今後はレンタカー屋に預けていた私の自転車の方に飛び移ってきました。どこまでも私に付いて来る予定でしょうか。
バッタのその眼差しを見ていると、昼間の爺さんの顔が浮かび上がってきます。
少し気持ちが悪くなった私はイナゴを慌てて払い除けて自転車にまたがり、油の匂いのするレンタカー屋を後にしました。