大阪京都周辺の山にはいくつもの河川があり、無料で渓魚を釣れるポイントを探しに山に入りました。
アクセス | 大阪市、豊中市、枚方市、吹田市、高槻市、茨木市、京都市から車で30~1時間 |
---|---|
対象魚 | アマゴ(朱点があるヤマメ)、ニジマス |
遊漁券 | 無料 |
管轄漁協 | 無し |
入渓のしやすさ | ★★★☆☆ |
歩きやすさ | ★★★☆☆ |
川底をのぞいてみると、ホコリを被ったような川底になっています。
生活排水が入っているわけでは無いと思いますが、嫌な濁り方です。私の経験上このような河川にはヤマメやアマゴは居着かず、どんな環境にも強いカワムツが列をなして待っていることが想定されます。
毛針を流していると、なにやら魚が毛針に飛びついてきました。が、油断していたため魚に掛けるはずの毛針を空中の樹木に引っ掛けてしまいました。
しかしその後、釣れたのは私の予想に反してアマゴでした。
人の手が入っていない自然河川で釣れる魚も好きですが、人の手が入りまくった河川でしぶとく生きているアマゴにもゾクゾクしてしまいます。
ホコリを被ったような河川なのでアマゴも少ないかと思いましたがそうでもなく、私がもう少ししっかり者であれば5匹くらいは釣れただろうと思います。
* * *
その後ポイントを変えてルアー釣りに変更します。
すると、深さがあるところでニジマスが釣れました。
まさかこのような小河川で40センチの魚が釣れると思っていなかったのでルアーを追いかけてきた大きな魚の影に飛び上がりそうになりました。しかし実際には北海道のワイルドなニジマスのように大立ち回りを演じてはくれず、あっけなく釣り上げることが出来てしまいました。
私の存在感に恐れをなしてニジマスの方が降参してきたという説もありますが、定かではありません。
* * *
自分が釣り上げたニジマスにインスパイアされたのか、スーパーでニジマスを購入してしまいました。「讃岐さーもん」というブランドの香川の養殖ニジマスだそうで、表記はトラウトサーモンになっています。
しかしなんだか色彩がリアルで、妙な気分です。例えるなら、さっきまで遊んでいた子ぶたが目の前の器に盛られている気分でしょうか。
このニジマスは刺身用だったので生で食べてみましたが、妙な臭みがあります。購入1時間後に食べたので腐敗したとは考えられませんが、この魚が生で食べられると判断されていることに驚きを隠せません。
友人が香川県の水産課で働いていることを思い出し、讃岐さーもんの臭みについてメッセージで質問をしてみましたが、回答はありませんでした。回答が来なかったのは私の質問が非礼だったからなのか、そもそも彼は私の友人ではなかったのか、今となってはその理由を知ることすら出来ません。
* * *
※以下は2020年8月の記事です。
2018年の台風で高槻市の山間部には大きな被害があったようで、北摂を車で移動していると、木がなぎ倒された光景が目に入ってきます。
崩れがひどいエリアを撮影したわけではなく、この光景が延々と続いている状態です。2018年の台風被害がほとんどそのまま、もしくは悪化している状態のようです。災害の範囲が広すぎるため、少なくともこの先数年はこの状況が続くのでは無いでしょうか。
* * *
川に入ろうとある集落に近づくと「土砂崩れにつき無用の通行は止めてください」という看板が出ていました。
通行止めなのかそうでないのか曖昧な書き方だったので気にせず進み、川を覗き込んでみます。
雨がほとんど降っていない8月後半でしたが、水はしっかりと流れています。魚が釣れるかなと、車から降りて川を覗き込んでいたところ、お爺さんに声をかけられます。
爺「あの車、兄ちゃんのか?」
現地に住んでいる様子の爺さんは、路肩に駐車している私の車を指差しています。
私「はい、そうです」
彼は第一声から機嫌が悪く、こちらを睨みつけているようです。
爺「車どけてくれへんかな、あそこで作業すんねん」
私「わかりました、少しズラしますね」
爺「少しズラすていうか・・・なんでこんなとこ来とんねん?」
私「魚の生息調査です。」
「釣り」と言うと遊び風情が漂うので、公の匂いをまとわせるために「調査」という言葉を使います。
爺「調査やなんや知らんけど、なんでここまで入って来とんねん?通行止めの看板出てたん気づかんかったか!」
当初、注意と車の移動の依頼だった要件は徐々に様変わりし、八つ当たりの様相を呈してきました。
彼はヤクザ風の爺さんというよりは、公務員勤めか大企業勤務が長いため偉そうな態度が退職後も骨身に染みている人種に見えます。
ちなみにその後、警察と市に確認したところ、「通行止めではなく協力依頼」だったのですが、この時点では通行可能と知らなかったので、こちらも強く出られません。
私「曖昧な注意書きだったので、入ってきちゃいました」
爺「なんじゃそれ。見てみろ、全部木が倒れてるやろ?ワシここでこれから作業すんねん、お前邪魔やねん!」
彼の眼差しは真剣そのものです。
退職した後、家に居場所もなく年中不機嫌な老人は、「被災」というツールを手に入れて蘇り、今や人類の不幸を一身に背負っているかのような面持ちで黒く濁った瞳を私に向けています。
私「ずいぶん、機嫌悪いですね(笑)」
怒れる人に油を注ぎたくなるという私の人格が出てしまいました。鼻で笑うような私の物言いに爺さんは眼を大きく見開き、目は釣り上がっています。
爺「ワシはな、被災しとんねやぞ!!!!!ワシの車もぺしゃんこになったんや!!!!台風が来てから2年も経つのに道路はいつまでも復旧せんし、ワシは大変なんや!!!!!!!お前にわかるんか!!!!!!!!」
私「被災することが、そんなに偉いんですか?!」
爺「偉いとか偉ないちゃう!ワシは疲れとるんや!!!!!」
私「疲れてる?!僕だってまぁまぁ疲れてますよ!!!」
爺「も、もうええ!!!行け!!!!!」
最後は爺さんも涙目になってきたので、立ち去ることにしました。
振り返ってみれば爺さんも爺さんなら、私も私です。
醜い老人と醜いニートによる口論は、汚れた服を泥水で洗うような、泥水かけ論になっておりました。
* * *
大通りに出た後、さらに上流側に回り込んで川に入ります。
細い流れに毛針を落とすと、魚が食ってきました。
魚は、ピチピチした軽やかな動きをしています。
ヤマメでしょうか、カワムツでしょうか?
私が行くところに必ず現れる、カワムツです。
気を取り直して毛針を浮かべても、釣れてくるのはカワムツばかりです。
それでも、暇つぶしに釣れたカワムツを撮影しようと、カバンからごそごそとカメラを取り出そうとすると、手元で「パキッ」という音がしました。
竿先を折ったのは今年に入って4回目くらいでしょうか・・・。
最高気温37度の暑さ、被災という強みを手に入れた爺さんの純な眼差し、折れた釣り竿・・・。
そのほとんどが自分で招いた不幸であることには目を伏せ、イライラしながら釣りを再会すると、
「ドボ~~ン!」
足元を滑らせて川にド派手にダイブしてしまいました。
左腕を強かに打ち付けた上に、首から下げていたカメラも半水没になってしまいました(幸い故障していませんでした)。
このあたりで釣りを終了し、半べそでレンタカーを返却に向かいます。
* * *
レンタカー屋に到着しても私はカリカリしており、手続きだけしてすぐに立ち去ろうとしましたが、レンタカー屋の店主さんが声をかけてきました。
ご主人「お兄さん、お土産、持って帰ってきましたね。」
彼が指差す方向を見ると、車の上に5センチほどのバッタが一匹、乗っていました。途中、田園地帯を通ったときに車に飛び乗ってきたのでしょうか。
私「はは、本当ですね」
車にひょっこり乗っかったバッタを示されて、カリカリし続ける道理はありません。
ご主人「おやおや、好かれていますね。」
バッタは車の上からひとっ飛びし、今後はレンタカー屋に預けていた私の自転車の方に飛び移ってきました。どこまでも私に付いて来る予定でしょうか。
バッタのその眼差しを見ていると、昼間の爺さんの顔が浮かび上がってきます。
少し気持ちが悪くなった私はイナゴを慌てて払い除けて自転車にまたがり、油の匂いのするレンタカー屋を後にしました。