水辺を旅しながらその地域で暮らしている人たちへの生活史の聞き込みを行う活動をされている方がおられることをSNSで知りました。
都心部の画一的な生活から切り離された彼らがどんな習慣を持っているのでしょうか。自分もそんな小粋な遊びをしてみたいものです。日が暮れるまで瞳孔全開でヤマメにフラれ続けるのではなく、早めに切り上げて背後にある集落を練り歩きながら地元の爺さん婆さんの夜這い話に耳を傾けるのも一興ではないか。
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とはいえまずは釣りをしないと話になりません。
この日は福井県にある漁協が無く、ヤマメやイワナが生息しているのかわからない河川で鱒を探してみます。
虫が飛んでいるのでのべ竿に毛針を付けて川に落としてみますが、全く反応がありません。しかし渓流釣り歴15年の私からすると、この地域、この標高、この水量ならヤマメやイワナなどの鱒が存在している可能性は高いように思えます。
諦めずに毛針のサイズを小さくしてみると、すぐに魚の反応が有り、釣れました。
(毛針のサイズを変えれば、魚の反応が変わることがあるのか・・・!)
渓流歴15年目の自称大ベテランは、誰もが知っている常識を「発見」し、驚くのでありました。
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釣り進んでいると、巨大な淵が登場しました。
このような深さがある淵には、きっと淵のサイズに相応しい大きな魚が居着いているはずですが、なぜかいつも私が登場した瞬間からそんな大物が神隠しに合うという不思議な現象が発生します。
こういうところで10センチ以上の魚が釣れたこと無いな~と思いながらも一応ルアーを投げてみると、淵の底から30センチ近い巨大なヤマメが追いかけて来ました。
手前までルアーを追いかけさせてしまうと、ヤマメが私の姿を見て二度と反応してくれない可能性があるので早めに回収し、もう一度ルアーを投げます。
ドキドキ息を止めながらルアーを投げて引いてみると
・・・
反応がありません。もう一度。
・・・
ダメです。
やはり釣ることが出来ませんでしたが、普段はお目にかかれ無いようなサイズのヤマメが居ることが確認でき、今後の釣りに希望を残す事ができました。
少し上流に行くと、今度は深さの無い平坦なエリアに出ました。この深さでは、先ほど見たような大きな魚は釣れないだろうとルアーを流すと、先程と同じように巨大な魚がぬらりとルアーを追いかけてきました。
今度は慌てて回収することなくルアーを泳がせ続けていると、なんと大きな魚が砕けるように、5つほどの陰に分裂してしまいました。
?!?!
何が起きたのかと目を凝らすと、どうやら軍の隊列のように整列したアブラハヤの塊が一匹の魚のような姿でルアーを追いかけてきて、解散しただけでした。
・・・。
小魚が群れて大きな魚に見せかけるというスイミーの話を聞いた時
「ただ集まっただけで巨大魚と勘違いさせられてたまるかよ」
と思った当時小学校2年生は大人になり、まんまとアブラハヤ版スイミーに騙されてしまったのでした。
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そんなバカを繰り返すうちに、日暮れが来ました。宿まで車で時間がかかることと、チェックインが20時までなので急いで移動しなければなりません。
そういえば地域住民への聞き込みはどうなったのでしょうか?
民俗学は?
それより今日の晩ごはんをスーパーで調達しないといけません。宿の近くにスーパーを併設した寂れたショッピングモールが有ったので、興味津々で立ち寄ります。
ショッピングモールというよりも廃墟と言った方が風情としては近く、スペースの半分くらいが隠されていたり、誰も使わない机と椅子が並んでいるだけの、まさに人生の下り坂を転がり落ちていく私自身を投影したかのような施設です。
いきなりメンズエステの看板が迎えてくれましたが、こういう怪しげな店はショッピングモールに入っていても良いのでしょうか。
施設内には広大なスペースが余っているので、卓球台が置かれています。きっと廃校から持ってきたのでは無いでしょうか。
料金は大人なら300円「くらい」で良いのだとか。
「お金が無ければ大人になった時に入れてください」
と有りますが、その子供が大人になる時までこの施設があり、さらに卓球台が置かれている可能性やいかに。
酒・ビールコーナーも大いに盛り上がっています。しかし酒とビールだけがありません。
施設を堪能した私は食料を買い込み、宿に入ります。
25歳の時「東京で一旗あげるぞ」と意気込んで友人と会社を立ち上げ、青山一丁目のオフィスにチャリ通していた私は今、畳が湿気た民宿で半額になったパック寿司と冷えていないビールを片手に、廃墟寸前になったショッピングモールを想いながら過ごしています。
明日は少し大きなお魚が釣れると良いな。