2018年にスタートした当ブログ屈指の超不人気企画であるビワマス産卵観察も4年目を迎えました。
今年こそは念願の産卵現場観察を成功させようと、滋賀県の北部にある鴨川を目指します。
鴨川
普段は堰堤からじゃぶじゃぶと水が落ちてくるのですが、晴れ続きで渇水になっているのか、水量は極めて少ない状態です。
ビワマスが上ってきている可能性は低いかなと思いながら川沿いを散歩してみると、小さな流れ込みに魚が見えました。
普段はこれだけ近づけば逃げられるのですが、人工物に隠れてじっとしています。やや元気が無いようにも見えます。
さらに上流へと進むと、ビワマスの死骸が転がっているのが見えました。死骸にしてはとても綺麗です。
あまりの美しさに見とれていると、口のあたりがわずかに動いたのが見えました。
どうやらわずかに生きているようです。刺激を与えれば動き出すのではと、少し動かしましたが、力なく横たわるだけです。
体は綺麗ですが頭に小さな穴があり、鳥につつかれたのかのかもしれません。
どうにか生き返らせたい、もし生き返らないなら俺が食べようか・・・とも思いましたがその用意もなく、ただ手を合わせることしかできませんでした(と良い人ぶってみましたがそれほど信心深くはないので、実際に手は合わせてません)。
別の河川に移動
鴨川が大渇水でビワマスの姿も少なかったことから、今回はビワマス産卵どころか産卵床を作っているところすら見られないのではと思いながらも、別の河川に移動します。
※人から教えていただいたポイントなので具体的なポイントの記載は控えます
別の河川に移動して川を覗き込むと、ビワマスがうごめく姿が見えます。どうやらメスのビワマスが穴を堀っているようです。産卵床作りから産卵まではタイムラグがあるはずですが、未経験の私にはそのタイムラグがどのくらいあるのか検討もつきません。
肝心の産卵がいつ始まるのか私には皆目検討がつきませんが、とりあえず産卵床の横に水中カメラを設置して、他の場所も見て回ります。
すると、先程カメラを設置したところから300メートルほど上流のポイントでも、ビワマスが穴を掘っていました。特にその根拠はありませんが、こちらのビワマスの方がなんとなく産卵に近い気がするので、もう一つの水中カメラを設置します。
と、このような感じで的を絞りきれずにあちこちカメラを設置した結果、どっちつかずの観察になって1日目を終わりました。
* * *
一晩悩んだあげく、観察するのは1箇所に絞り込むことにしました(当たり前)。
昨日産卵床を作っていた下流側のポイントに向かうと、オス同士のバトルが激しさを増しているようで、水中がざわついています。
産卵床と思われるポイントの前に水中カメラを設置して、川沿いから見守ります。
川辺から道路の方を見上げていると、たまに通り過ぎる車の運転手が男性である場合、ほぼ漏れなく車を停めて水中を覗き込んでいる様子が見られます。
その中でも高齢の男性かつ軽トラに乗っているタイプであれば、漁協から許可をもらっている漁師である可能性があります。
そんな漁師は我々観察者にとっての最大の敵です。彼らは撮影者が先に川に入っていようがおかまいなしに重い金具の付いた網を投げこむことがあるそうです。
漁師さんはビワマスを網でとらえて食べるのではなく県の施設に販売し、施設では購入したビワマスを人工孵化させて川に放流し、資源量の確保をしています。
そのため漁師さんは「ビワマスの繁殖のために捕獲している」という大義を持っています。しかし琵琶湖の流入河川にはあちこちに自然に産卵できる環境があるのだから、何故わざわざお金を払ってビワマスを捉えさせて、お金を払って卵と精子をしぼりだして、お金を払って放流するのか、私にはよくわかりません。
繁殖事業への投資が再生産に対して価値ある貢献をしているというデータも今の所拝見したことはありません(もし具体的な情報あれば教えてください)。
おじいちゃん達が夢中になってビワマスを捕獲することの大義は、まるで鍋の中の湯豆腐のように箸でつかめないほどやわらかいもののように思いますが、それでも大義を持っていることは事実です。
さらに大義だけではなくおじいちゃん達にとってはビワマスを捕獲することはお小遣い稼ぎにもなりますし、さらに最大の後押しはビワマス漁自体が楽しいということだと思います。
毎日明日の天気しか気にすることがない田舎の生活で、大きくて美しいビワマスを自分の手と網という道具だけで捕える作業はこの上なく楽しいことでしょう。
私だって免許さえあれば、正直なところ獲ってみたいです。誰よりも下手くそな網を、誰よりも遅い時間まで投げている姿が容易に想像できます。
昨年、奥様を失くされたばかりのむっつりした軍人みたいな男性も、ビワマスを捕らえた瞬間には初めてとんぼを捕まえた男の子のような笑顔を見せていました。
そう考えてみると、私はこのとんぼ漁師さん達を、わずかに応援したい気持ちになります。
* * *
帰宅して水中に設置していたカメラの動画を観かえします。
動画を長時間撮影しすぎて(カメラ2つで12時間ほど)高速再生でも目が疲れてきます。
サケ科の産卵前の合図としては、「メスが産卵床に尻鰭を沈めて、産卵床の完成度を確認する動きをする」と聞きましたが、動画の中でその動きを初めて確認できました。
映像の一番右にいるメスのビワマスが尻鰭を沈め、オスが集まってきます。
さらにはオスのビワマスが体を震わせながら、メスに産卵を促す行動も見られます。
遂に、産むのか!
と思っているのは私だけではないようで、メスが尻鰭を沈めるたびに3~6匹ほどのオスが律儀に集まってきます。
尻鰭を沈めだしてから1時間半が経過し、映像を見ることにうんざりしだした時に、画面の隅っこにイクラのような粒が飛んだように見えて巻き戻してみると、本当に産んでいました。
「素晴らしい映像ですね」
と言ってくれた友人も居ましたが、私が最も撮りたかったビワマスの顔を写すことができませんでした。私のような魚以外の生物からはビワマスの危険極まりない遡上も、産卵後にボロ雑巾のようになって死んでいく理由もまるでイメージが湧きません。しかしその理由の全てが産卵時の壮絶というのか恍惚というのか、あの表情に詰まっているような気がしており、どうしても表情が撮りたかったのです。
そんなビワマスの産卵時の顔も、卵もしっかりとは映っていませんが、一応産卵シーンが撮れました。
見えない表情は各自で好きなように補ってください。
この時のメスビワマスをめぐるオス同士の攻防についてはこちらに記事にしました。
* * *
昨日までのオス同士の喧騒はどこへやら、この日は水中がすごく穏やかです。
メスが砂をはたいているようですが、産卵床に砂を被せているのでは無いでしょうか。
お昼までは時間があったので、カメラを片手に草陰で泳ぐビワマスを撮影して遊びました。
奥に白い尾びれが見えていますが、産卵床作りで尻尾が傷んだメスのビワマスです。
こちらもハッキリ撮影したかったのですが、そうは行かないものです。