前日、自分にしては多くのアマゴを釣ったあげくにプチ遭難を味わった私は、この日もさるイワナ・ヤマメ研究者さんから教えて頂いたイワナが居る可能性がある河川に向かいました。
研究のための「無料で動くサンプル回収機」だと私のことをラベリングしている彼が珍しく、川に向かおうとしている私に
「気をつけて 危ない谷です」
という、嫌な感じがする空白を入れたメッセージを入れてきました。慌てた私は
「この支流ですか?!」
「どう危ないのですか??」
と聞きましたが、なぜかその質問には返信がありません。所詮私はサンプル回収機、壊れれば別の機械を見つければ良いだけです。
「骨を拾ってくださいね」
という最後のメッセージも深い深い谷底に落ちていく石ころのように、なんの反響音も返すことなく消え去って行きました。
私は生きて帰って来られるのでしょうか。
一晩遭難することを見越して多めに防寒と食料を準備し、さらに母親に川の場所を伝え「もし夜になっても連絡が無ければ捜索して欲しい」とLINEを入れたところ、70歳の母から返信がありました。
母「そっちも良い天気ですか。マグロ🐟️が釣れないかな?お母さんはこれからコーラスに行ってきます。」
何故川釣りなのにマグロなのでしょうか・・・。こちらの緊迫感は一切伝わっていないようですがそれも仕方なし、川へと向かいます。
* * *
恐る恐る、川に入ってみます。
大きな岩はありますが、それ以外にこれといった危険な要素が無い渓流です。
川の横には林道があり、今のところ安全に川から出られそうです。しかしいつ、危険なエリアが登場するかわからないので、逃げ道を確保しながら慎重に進みます。
川を観察してみると、そこかしこで魚が虫を食べている様子が観察出来、ポイントというポイントにはほぼ全てアマゴがついている様子です。
毛針を浮かべれば楽に釣れるかと思いきや、魚が毛針に突進してきても、なかなか針に掛からず、空振りが10回くらい続きます。
イライラは全身の痛みを強調し、徐々に肩の痛みを覚えます。
(あの研究者め、遭難とか言うから装備品が増えて荷物が重いじゃないか・・・)などと、忠告してくれた恩人に悪態をつき始めます。
少し岩が大きくなってきたので、慎重に進みます。アマゴの方は相変わらず毛針に良い反応を見せてくれるものの、食べ損なっているのか毛針が不自然なのか、針に掛かることがありません。
※漁協の無い河川の釣り場なのでポイントは有料記事に記載しています
ところで渓流釣りをしている間、皆様はどんなことを考えられているでしょうか?
私の場合は十中八九、楽しかった思い出や親しい人の顔を思い出すということはなく、嫌いな人間の顔(レギュラーメンバーは3人くらい)が織田鉄砲隊のように順番に頭に浮かんでは消え、浮かんでは消え、と繰り返すことになります。
この日はレギュラーのうちの主力である2人の同年代の男性の顔が次々と現れては「彼が生きながら味わえる全ての不幸が降り注ぎますように」と祈る時間が続きました。
そんなことをしている間に、ついにアマゴが釣れました。
これまで小物ばかりを釣り上げてきた私でも、毛針で釣った最小サイズになると思います。
皆様もご存知かと思いますが、アマゴは成魚よりも幼魚の方がダントツで美しいです。人間の赤ちゃんならブサイクでも見ていられるのと同じでしょうか。
ちなみに私はこのサイトの自己紹介ページでも書いている通り、魚のサイズよりも美しい魚を追い求めていたような気がします。従って、この魚も釣れてしまったのではなく「狙って釣った」と言える、まさに必然の結果なのかもしれません。
そういえば釣り雑誌の表紙も、釣り番組のクライマックスも、店の壁に掲げられた魚拓も、全て魚のサイズが大きいという点で一致しています。
人より勝っていれば比べたいし、劣っていれば言及したくない。それは例えば学歴、年収、勤務先、地位、車、女、住居、結婚、子供の有無、子供の学歴、子供の結婚、孫、孫の学歴、親戚の・・・。AV監督の二村ヒトシ氏いわく、こういった人より良ければ比べたいものは「全てペニスの代替品」と表現しています。
つまり、大きな魚を自慢する行為は大の大人が自分のペニスを自慢気に人に見せつける行為と差異が無いと言え、「銭湯でみんなが二度見する大きなイチモツをください」と願う農夫を笑うことが出来ません。
釣れた魚のサイズを誇っている方へ。人生の満足度の方はいかがですか。
魚と言う代替手段で自分のポジションを確認していませんか?
僕はあくまで狙って小魚を釣っているのです。大物狙いだなんて・・・笑っちゃうな・・・。
この妙な開き直り戦法を思いついたからか、小さいながらも魚が釣れたからかは不明ですが、先程まで恨んでいた2人の彼らに対しても
「色々あったけど、元気にやってくれたら良いかな」
と、一方的に和解が成立してしまうのでした。
* * *
そして今日も研究者から依頼されたイワナのサンプルなどそっちのけで、水中にカメラを入れてアマゴを観察します。
やる気なく追いかけてくるアマゴの美しさもさることながら、私が気に入っているのは2:45のところでアブラハヤがルアーに食いつき、暴れること無く連れて行かれるシーンです。
そして周囲のアブラハヤの
「あーあ」
と言っているかのような目線も堪りません。これまであまり好きになれなかったアブラハヤとも少しだけ和解が出来たような気持ちになります。
* * *
この日は水中カメラでアマゴを撮影しやすい環境だったので、以前からやってみたかった実験を行います。
私はある渓流釣りインスタグラマーのファンです。彼は高度なルアーフィッシングのテクニックを持っており、しかも大金持ちで毎日釣りをしていられる身分であることを自称しています。彼は中高年の男性でありながらファッションでも抜きん出ており、渓流釣りをしていとは思えないほどのオシャレで決め、そしてカメラ映えを気にして渓流のわずか1メートル横で料理をし、川の神に祈りを捧げている瞬間まで弟子に撮影させたりもしていました(本当にファンなのです)。
そんな彼がある時、渓流を歩いている弟子に向かって
「石を蹴飛ばしちゃダメだぞ、水中は空中の4倍の速さで音が伝わるから」
と言い放っていました。
音が伝わる速さではなく、大きさで表現しないと意味無いのでは?と思いました(ファン)がそれはさておき、実験してみたいと思います。
アマゴから1~2メートルのところに有る岩に直径15センチほどの岩を思い切りぶつけてみました。編集が雑で申し訳ないですが、「★★★」のところで音が入っていると思います。
カメラがしっかり拾うほどの音が出ているのに、3匹のアマゴは一切気にしていません(2匹はかなり小さな幼魚ですが)。
この後、過去にみんなからいじめられた時のことを思い出して「キェー!」と奇声を発したりしましたが、彼らは変わること無く一生懸命食事に集中していました。それでも私がこの小さなアマゴ達の前に姿を表すとたちまち消えていったことから、
「重要なのは音よりは人の姿や影なのかな」
と思いました。
※漁協の無い河川の釣り場なのでポイントは有料記事に記載しています
しましまの岩
この河川にはしましま模様が入った岩石が見られました。
これは砂岩と泥岩が交互に重なっていった「砂岩泥岩互層」というそうです。例えば河口から少し離れた沖の方では川から流れ出た泥が普段は堆積していきますが、洪水が起きた時には泥より重い砂や小石が飛んで来て折り重なり、このような地層が形成されると言われています。
魚は私を裏切りますが、岩はわりと常にそこに存在してくれています。これからは岩石観察愛好家になるかもしれません。
翌日はかつて陸の孤島として隔絶されていた漁村を散策し、その後無漁協河川でアマゴを狙いました。